「あなたがシンデレラ?」
その日も、ある資産家のパーティで、女はいつもの様に男に話し掛けられた。
「ええ、そう言われているみたいね」
女は少し酒に酔っているのか、気怠そうに応えた。
「素敵だ。僕は君みたいな人を探していたんだ!」
男のオーバーな言い回しに、女は軽く笑みを浮かべた。
「あら、初対面でプロポーズかしら?」
女は男に興味を抱いた。
探ろうとしてきた男は星の数ほどいたが、ストレートにこんな台詞を吐く男は初めてだったのだ。
「いや、勘違いしないでくれよ。君を狙う他の幾多の男と一緒にされるなんて心外だな」
そうして、大袈裟に笑い声を上げると、男はスーツの襟のあたりに片手を入れ、内側から写真を取り出した。
「これ見てくれないか」
「素敵、ガラスの靴だわ」
写真を覗きこみ、女は声を上げた。
「そう、ガラスの靴。シンデレラだけが履けた例の靴だ」
「本当にシンデレラの靴なのかしら?」
「いや、ある有名な靴屋に作らせたものだ。知り合いの資産家の息子が、この靴を履けた人としか結婚しないってごねてるんだ。あまりに小さくて、合うお嬢さんなんかいる訳ないんだが……。たぶん、結婚したくないんだろうね」
男はそう一気に話すと、悪戯っ子の様な顔で女に笑いかけた。
「ものは相談なんだが、」
「私にその靴を履けと言う気かしら?」
「賢いね、お嬢さん!」
「一応、褒め言葉と受け取っておくわ。これも何かの縁だし、お受けしようかしら。そろそろ、独り身も寂しいし」