「ん…、ぁ…?」 確かな声がした。 唇の事しか考えていなかったせいで、開いているが何も映さなかった目で奴を見れば、 真ん中で星でも飛びそうなくらいがっちりと視線が絡まった。 こいつ、しっかり覚醒してやがる。 文字通り口に口をつけたまま彼を伺ってみるが、未だ状況判断が出来ていないのだろう。 目を一杯に開いたままこちらを見上げて来る。 なぁちょっと、何だそれ。反則。 離したほうが良いのだろうが、生憎今の俺は止まりそうもない。 ぶっちゃけあんな可愛い上目遣いをされて止まれるはずもない。 噛まれるだろうなと思いながらも、そっと相手の口の中に舌を入れてみる。 ぴくりと奴の肩が跳ねた。 が、抵抗も無ければ見開いた目を閉じることもない。 完全に固まってしまっている相手に少し悪いと思いつつも、舌を奥まで進めていく。 何度も殺したはずのこいつの口の中は、けれどとても暖かかった。 彼の舌に舌で触れてみる。 唇同様柔らかいが少し震えていた。 怖いのだろうか。…当然か。 相手の頭に手を回しこちらにぐっと引き寄せる。 角度を変えて深く、より深く。 …してはみるのだが反応がない。 仕方なく口を離せば不安そうに揺れる瞳と出会った。 「…怖かったか?」 問えばふるふると首を横に振る。 ほとんど密着している状態で、俯いてそんなことをすれば俺に頭を擦り付ける格好となる。やはり、可愛い。 「…どうすれば良いのかわからなかった」 少し遅れての、小さな返事。 髪の隙間からみえる彼の表情は、どこか申し訳なさそうで。 (可愛いなぁ…もう) 生娘かとからかいたくなるような初々しい返答が、どうしようもなくいじらしい。 どうせこいつの事だ、口を合わせるのは初めてではないだろう。 ただきっと、こんな風に絡めるのは初めてなのかも知れない。 「舌を、絡めてみろ」 きょとん、と上を向いた相手に再度口づけてやる。 やはり目を見開いたが、俺が舌を突っ込んでやれば、おずおずと舌を持ち上げ絡めてきた。 たどたどしい。けれど、必死。 気づけばあれほど開いていた目は閉じられていて、いつの間にやら俺の胸辺りに手を当て両手できつく服を掴んでいる。 あんまりだ、あんまりに可愛すぎる。 案外長かった睫毛とか、緊張でもしてるのか額に浮かんでいる汗だとか、少し赤みの差した頬だとか。 こいつの全てが俺を煽る。 何よりも、 下手くそなくせに頑張る口づけとその姿に。 あぁもう、愛おしい。 しばらくお互いの口内を貪り合った後、ちゅく…と音を立てて口を離した。 離しても銀の細い糸が俺らを繋いでいる。 所々小さな玉が出来ていてまるで数珠のようだった。 「、っ…は」 相手の表情を見れば先程とはまるで違う、とろんとしたような瞳と、完全に上気した頬。 しっとりと潤った唇から伝っていくどちらかの、いやきっと両者の唾液。 それを袖で拭ってやれば、恥ずかしそうに顔を埋めて来る。 甘ったるい、ここら一帯の空気が酷く甘ったるい。 そういえば恋人であるはずの萌黄とは、こんな風に口づけたことなかったなと今更ながらに思い出す。 いまこの時間と、この雰囲気を「幸せ」と感じている俺は、 一体こいつにどんな感情を抱いているのだろう。 「…リウ」 めったに呼ぶことのないこいつの本名。 呟いてみたが反応がない。 見ればまた、口を中途半端に開いてすやすやと寝こけていた。 …お前はどんな気持ちで、俺の接吻を受けていたんだ? 聞きたくても聞けない。 状況的にも、心理的にも。 よくわからないもやもやとした気持ちのなか、 それでも幸せを感じていた俺は、 とりあえず気持ちよさ気な化け物を、 起こさないように配慮をしながら、 柔らかいその頭を撫でていた。 (下手くそ、それ以上に愛おしい) ***** 早くくっつけおバカ共\^p^/ ← * 戻 |