▼ おつかれさまの謎解き
「疲れた。」
そう言って、出会うや否や私の肩にこつんとおでこを乗せたのは自称、実力派エリート。
そう名乗るくらいなので、後輩や仲間の前ではもちろん頼りになる元S級隊員として振る舞っているし、実際彼女である私から見てもこの男は頼りになると思う。
そんな彼が今こうして出会い頭私の肩に頭を預けている。それも、本部基地の廊下においてだ。
「迅くんー?」
あれ、返事がない。
この廊下は人通りが少ないとはいえ、全く誰も通らないわけではない。このままだと誰か通るかもしれないが、彼がこんな姿を後輩や仲間に見られていいと思っているとも思えない。
「おーい、迅くん。大丈夫?」
再び名前を呼んでみる。立っているし、寝ているわけじゃないよね?
最近とても忙しかったのだろう。久々に会う約束ができ、待ち合わせ場所に着いたと思ったらこの状態。
私も彼も人前でイチャコラしたいタイプではない。そんな彼が今こうして本部の廊下にてこのように私の肩におでこをくっつけている。さては、相当お疲れだな。
「迅くん、お疲れ様。とりあえず本部出よ?ご飯食べに行く?」
、、、。返事がない。
「誰か来ちゃうよ?」
うーん。これは。謎解きか。
求められている、何かを。
たぶん人が来ないというのは予知済み?となると、迅くんが欲しい何かを私が差し出すか、行うかしなければならない。
迅くんはこうやって、たまに私に何かを求めてくる。疲れが溜まっていたり、忙しい日が続いていたりする時は特に。甘えているのか、面白がっているのか。
私はこれを密かに謎解きと呼んでいる。
忙しくなりすぎるとこうやってたまに現れる彼の癖に内心溜息をつく。
しかし人目のつく場所で求められたのはこれが初めてだ。なんとか一秒でも早くクリアしないと。
「謎解きか。うーーん。今日のはなんだろう、、、、ていうか本当に人来ない?」
クスっ。肩で迅くんが笑った声が聞こえる。
笑ってる場合じゃないのよ。人来たらどうすんの。もし太刀川さんや諏訪さんだったりしたら、、、一生揶揄われる。
「ヒントは2人きり。」
「2人きり、、?今?」
ぼそっと呟かれたヒントから答えを導く。2人きり?2人きり。2人きり、、、あ、
「悠一くん。」
「正解。」
「おおっ!」
名前を呼んだ。それは2人きりの時だけ私が使う彼の呼び名。
たったそれだけでさっきまで頑なに上げられることのなかった彼の顔が持ち上がった。
ぱちりと合った目線に思わず笑みが溢れる。
「正解は悠一くんか〜」
「あー。なまえ。久しぶり。」
「っておいおい。」
「大丈夫、誰も来ないのちゃんと視えてるから。」
今度はぎゅっと抱きしめられ、私の顔が悠一くんの胸にぴたりとくっついた。
「もう。」
「だからもう一回呼んで。」
「はいはい。悠一くん、早くお家帰ろ?」
再び離れた身体。目の前の悠一くんは上機嫌で。
「ていうか謎解きってなんなの。」
「えー、謎解きじゃん。」
本部から、私の部屋への帰り道。繋がれた手に温もりを感じ歩いた。
2021.3.22
この夢話が謎〜
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