迅くん | ナノ


4.私の世界は



玉狛支部に新しい3人の仲間が加わった。まだ可愛らしさを残す少年と少女。私より年下ではあるが、3人ともとても強い意志を持っているということは食事の片付けを片手間に話を聞いている私にも分かった。




新しい仲間。より一層賑やかになった玉狛支部。そのはずなのに、嬉しい気持ちとは裏腹に、不安と悲しみに包まれる胸の中。



大方の家事がひと段落した昼下がり。この時間には私以外誰もいない玉狛支部。

調べ物に使ってもいいと迅くんに与えられたタブレット端末には今日の晩御飯のレシピが表示されていた。そのタブを閉じ、新しく検索エンジンを開く。


「はあ、、」


"異世界 戻り方"

なんて検索すればもう何度も目にしたオカルト系のホームページばかり。検索する私もおかしいのかもしれないが、今の私にできるのはこれくらいだ。



長期休みの帰省を終え、一人暮らしの家へと戻る道、突然目の前に黒い球体のようなものが現れたと思ったら、次に出てきた白い怪物のようなもの。その大きな口から逃れることもできずに飲み込まれたというところで私の記憶は途切れている。

次に目を開けた時に見えたのは、「やっぱりか。」と少し複雑な表情をした迅くんの顔だった。


私を飲み込んだ化け物は"近界民"というもの。それらから日本を守っている"ボーダー"という組織。迅くんから聞かされたそれらは、いずれも私が今まで生きてきた中で見たことも聞いたこともないものだった。

いつもと同じはずの世界。しかしスマホはどこにも繋がらず、勤務していた職場もなければ私の戸籍さえもない世界に来てしまった。




『帰る方法、俺も探すよ。それまでうちにいればいい。』


そう言ってくれた迅くんを思い出す。

新しい仲間が増えたにも関わらず、不安が渦巻く胸の中。その理由はこのことだ。


増えた仲間の1人、かわいい女の子のチカちゃんは近界に行ったであろうお兄さんと、攫われたであろう友人を探しに行きたいということだった。そのために、ボーダーになり遠征に参加する。それを目指すために修くん、遊真くん、チカちゃんの3人でチームを組むということだった。


何の気無しにその話を聞いていた私だったが、そこに私の帰る道もあるのではと考えた。それは、この3人に出会う前からなんとなく考えていることではあった。

もしかしたら、私の世界も"近界"にあるのでは?と。


しかしその考えは、迅くんから発せられた言葉により否定されてしまう。3人から離れこちらに向かってきた迅くんは私にこう言ったのだった。


『なまえさんがいた世界は恐らく近界にはないよ。俺サイドエフェクトがそう言ってる。』


その言葉に、落ち着いた声で『そうなんだ。』と返すことしかできなかった。

私はどこに、どうやって帰ればいいのだろう。


2021.3.5


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