許せない
ばんっ、と勢いよく戸を閉めるとビクりと跳ねるなまえの身体。
その細い腕を握る腕に力を入れると、『いっ、。』という声を漏らすなまえは今にも泣きそうな顔で俺を見上げた。
頭に上った血はふつふつと煮えるように熱い。
任務を終え、めずらしく明るいうちに帰宅することができると浮き足立っていた。
普段は夜中か明け方の帰宅が多い。
だから滅多にないこんな日は、普段あんまり時間を取れない分なまえとゆっくり過ごしたい。
一緒に風呂に入って恥じらうなまえを湯船で抱きすくめ、そのまま愛して自分だけのものにしてやろう。
そんで飯食ったら同じ布団に入ってまたじっくり愛してやればいい。
そうやって俺のことしか考えられないようにしてやりたい。なまえの身体も心も全部全部俺のもんだ。
ところが何だ。
考えていた甘い時間とはとは真逆の状況。
苛つきが収まらない。
脳裏に焼きついて離れない。花を抱えて照れたように頬を赤く染めるなまえ。
そんな表情、見ていいのは俺だけのはずだ。
そんな顔、させていいのは俺だけだ。
しかもよりによって相手があの冨岡ときた。
なまえの腕を握る手に無意識に再び力が入ったのか、なまえがまた声にならない声を上げた。
あぁ。そうだった、この腕もあいつに触れられてたじゃねぇか。
許さねぇ。
「許せねぇなァァ!!!」
『っ、!!!い、痛い!、、実弥さん、、やめ、て、、っ、、ぅ、、』
「、、、、っ。」
両手でなまえの両手首を身体ごと壁に押し付ける。
俺を見上げるなまえからは堪えきれなくなった涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
何で怒られてるか分からない。といった表情だ。
ああ。くそ。
『さ、さね、み、さん、、っ、ぅ、ごめ、ごめんなさ、いっ、、ぅ、、』
何泣かせてんだ。クソ。
なまえの涙に、ゆっくりと頭の熱が冷えていくのが分かる。
「何に対して謝ってんのか分かってんのかァ?」
『、、っ、、』
きょろきょろと左右に瞳を揺らすなまえ。
ほら、分かってねぇじゃねぇか。
『さ、さねみさ、、んっ、、んん、、』
「ん。なまえ。」
両手を壁に押し付けたまま、視線より下にあるなまえの唇に自身のそれを押し当てる。
突然の口付けに驚いたように目を見開いたなまえだったが、角度を変えてもう一度落とした唇にそっと目を閉じた。
『ん、んん、、。』
息継ぎの下手くそななまえから漏れる声に頭がくらりとする。
漏れる声とともに僅かに開いた隙間に舌を滑り込ませ、歯をなぞる。
頑なに閉じられていた歯はそれを合図に従順に開かれた。自身の舌でなまえの舌を絡めとると、なまえの身体は力が抜けたように俺にもたれかかった。
心地よい重みに腰を支え柔らかい身体に手を這わすと、突然ビクリと跳ねたなまえの身体。
途端に慌てた表情になったなまえは両の手で俺の胸を押す。
『っ、はぁ、、っ、実弥さん!』
俺を見上げる瞳は熱く濡れており、涙の跡さえもひどく扇情的にみえるほどなまえに夢中になっている自分に気づく。
少し乱れた胸元には数日前に自らが付けた痕。
あぁ。俺だけのなまえ。
誰にも触れさせたくない。
「冨岡と何してたァ。」
『え、あ、、えっと、、、この花をくださったんです。』
肩で息をするなまえの背中を落ち着かせるように撫でる。こうさせたのは自分なのに、おかしな話だ。
『この間の、、おはぎを振る舞った際のお礼だとかで、、、』
この間、というのは先日冨岡が屋敷に訪れた時のことだろう。俺が不在だったにもかかわらず、冨岡を家に上げたなまえをこっぴどく叱ったことをぼんやりと思い出す。
クソ。その時のことにも、先程のことにも腹が立って仕方ない。
『で、でも!その、家の中に招いてはおりませんので、、、』
「はあ、、、。」
怒らないで、というように見つめるなまえにため息をひとつ。
ぽん、と頭に手を置けば、ほっとしたように息をつくなまえ。
「どうでもいいんだよォ、んなこと。他の奴の前で無防備な姿晒してんじゃねェ。」
再び顔を近づけ、耳元で囁くとびくりと跳ねた小さな身体。
「風呂入って飯食ったら朝までたっぷり仕置きしてやらァ。」
『えぇっ!?』
俺がどれだけお前に夢中か。
他の奴に触れられることが、他の奴の目につくことがどれだけ嫌か。
たっぷり身体に教えてやるにはどうしたらいいか。
2020.3.30
間あいてしまった!
裏に続きます。