花束
「なまえ。」
『っ!?、、あ、』
主人が不在の昼下がり。
しんと静まり返った屋敷。差し込む日差しはぽかぽかとあたたかく心地が良い。
そんな日差しを浴びながらのほほんと屋敷の前の道で掃き掃除に勤しんでいたところ、不意に背後からかけられた声に飛び跳ねる心臓。
私の挙動に相手も驚いたようで、振り返ると大きく目を開いてあわあわと慌てる姿が目に入った。
『ぎ、義勇さん!!』
「すまない、驚かせてしまったか。」
申し訳なさそうに眉を下げるのは先日知り合った鬼殺隊員ーー冨岡義勇さんだった。
見知ったその姿に飛び跳ねた心臓を落ち着かせながら、鬼殺隊の人はみんな気配を消して動くのが癖なのかなんて考える。
いや、私がぼうっとしすぎていたのか、、。
『いえ!こちらこそぼうっとしていました、すみません、、、』
そんなことはない。と首を振る義勇さん。気を使わせているようでなんだか申し訳ない。
『あの、実弥さんはまだお帰りになってないんですけど、中でお待ちになりますか?』
言った後にはっと気づく。
実弥さんは不在の際、屋敷に人を入れることとてもお嫌いになる。例え鬼殺隊の隊士でも、、
以前、今のように実弥さんの不在時に義勇さんを屋敷に招き入れたことをとてもとても叱られたのだ。
どうしよう、、でも義勇さんにはなんて言えばいい、?
「いや、なまえ。お前に会いにきた。」
『その、実はです、、ん?えっ!?』
「?なんだ。」
『あ、その、今なんて、、、?』
「?お前に用があってきたと言ったんだが、、」
『、、へ?』
なんてお断りの言葉をかけよう、、と悩んでいるところ、義勇さんから発せられた言葉に目を丸くする。
私に用、、ん?なんだ??
でもこれで義勇さんを屋敷に招くことは防げた、、のか?
ぐるぐると思考を続けていると、義勇さんが後ろ手に隠していたものをごそごそと目の前に出した。
「、、、これを。」
『えっ、わ、、綺麗、、、』
目の前に出されたのは小さな花束。
白とピンクの花がまとめられ、小さなリボンが添えられていた。
「花屋が西洋の花を仕入れたと言っていた。」
『そうなんですね!』
なるほど、西洋の、、。元の世界ではよく見た花だったが、よく考えれば久しぶりに見る花だ。
義勇さん、花なんて買うんだな。実弥さんは、、買いそうにない、、笑
なんて失礼なことを考えていると、不意に義勇さんの手が伸びてきて不思議に思い首を傾げる。
義勇さんの手はそのまま私の手を取ってその小さな花束をそっと乗せた。
突然のその行為に驚くも乗せられた花束を落とさないように両の手で抱える。
「この間の礼だ。」
『えっ!』
この前、、ということは、あのおはぎのことだろうか、、。先日、義勇さんにおはぎを振る舞ったことをぼんやりと思い出す。
『そ!そんな!お礼なんて!!こんなかわいいお花、私にはもったいないです!!』
慌てて首を振り否定すると、なんだかちょっぴり気を落としたような義勇さんの姿。
「、、花は嫌いか?」
『い、いえ、好きですけど、、』
「、、では、気に入らなかったか?」
『ち、違います!!とても綺麗で、、それに、、
かわいい、、』
花に視線を落とし呟く。
本当に可愛らしい、見ているだけで元気の出そうな花だ。
「あぁ。お前にぴったりだ。」
『へっ?///』
義勇さんの不意の言葉に驚き顔に熱が溜まる。
この人は、、天然のたらしだなこりゃあ。
『で、では、ありがたく、、、?』
「、、、」
しょうがない、せっかくだしありがたく頂こう!!と思って視線を上げると、ぴくりと何かに反応した?義勇さんが私の後方へと視線を向けているのに気づく。
ん?どうしたんだろう、、。
不思議に思って振り返ろうとした瞬間、
ヒュウウウという音とともに吹いた突風。
突然のそれに驚きぎゅっと目を瞑る。
『ん、、っ!すご、、風、、なに、、っ!?』
「なまえ。」
あまりに強いその風に、踏ん張る足に力を込めようとしたところ、隣にいた義勇さんに腕を引かれ背中へと回された。
ーーーーカキン。
謎の金属音。
それとともに収まった風に、何事かと目を開けると目の前には義勇さんの背中。
『ぎ、義勇さん、大じょ、、っ!?』
その大きな背中から覗き込むように視線を向けると、そこにあった光景に言葉を失い凍りつく身体。
「冨岡ァ!!今すぐその手を放さねェとぶっ殺す!!
人の女に手ぇ出すたァいい度胸だなァオイ!!!」
「?どうした不死川。手など出していない。」
「うるせェんだよォ!さっさとくたばりやがれェ!!なまえ!!!てめェもたっぷり仕置きだァ!!」
そこにあったのは、拮抗しギシギシと音を立てる青と緑の刀。
そしてピキピキと青筋を立てる実弥さんの姿だった、、。
2020.3.2
続きます、、笑