暗い夜でも
はっ、と目を覚ましたのはしんと静まり返った深い夜。
どくん、どくんとうるさい心臓は夢で見たあの景色を思い出し落ち着かない。
元いた世界で、自分の命を落としてしまったあの瞬間。
頻度は少なくなったものの、未だにこの悪夢を見てしまう。
以前のようにうなされることは本当に少なくなった。しかし、夢から醒めた瞬間のこの感覚には未だに慣れない。
胸にきゅっと握った手を当てる。
大丈夫、生きている。
呼吸を整えようと深呼吸をひとつ。ゆっくりと息を吸いかけたとき、隣にあった彼の暖かい腕が伸びてきて私の身体を優しく包んだ。
「悪い夢でも見たかァ。」
『はい、、起こしちゃいましたか。ごめんなさい。』
あたたかい。
大きな手のひらで頭を胸に押し当てられる。
息を吸うと実弥さんの香りが胸を満たす。
この感覚がとてつもなく落ち着くということに気づいたのはつい最近のことだ。
「眠れそうかァ?」
『ん、大丈夫です、、実弥さんも眠ってくださいね。』
「あァ。」
そう言いながらも背中をさする手は止めない実弥さんに優しさと温もりを感じる。
たまらなく愛おしくなり、私も実弥さんの背中へと腕を回す。
ぎゅっと抱きつくと体に感じる実弥さんの心臓の音。これもまた落ち着く。
「なまえ。」
『はい、なんでしょうか。』
しばらく全身で実弥さんを感じていると、頭上から名前を呼ばれると共に頬に添えられた手。
その手でぐいっと上を向かされるとなんとなく怒ったような顔の実弥さんと目が合う。
「こういう時はちゃんと俺を起こせっつってんだろうがァ。」
『え、あ、、でも、、』
そんな、任務や鍛錬でお疲れの実弥さんを夜に起こすなんて、、、。
私の言葉に、はあ、と一つため息をついた実弥さんは今度は私の首筋に顔を埋めた。
髪の毛があたって少しくすぐったい。
「でもじゃねェ。」
『はい、っ、く、くるしい、、!』
そしてそのままぎゅぅっと力強く抱きしめられる。
それがあまりに苦しく、声を上げたところで少し緩んだ力にほっと息をつく。依然としてきつく抱きしめられたまま。
『実弥さん、、?、っ、ひゃっ、いっ!!』
「仕置きだァ。』
未だ首筋に顔を埋めたままの実弥さんに声をかけると、急に首筋に感じたチクリとする痛み。
突然のそれに驚いて変な声が出てしまう。
顔を上げた実弥さんは少し満足そうに私を見る。
「次からはちゃんと言え。分かったかァ?」
『は、はいっ、分かりました!』
よし、と小さく聞こえた後、また優しく包まれた身体。感じる愛おしいぬくもりとともに、心地よい眠気に身を委ねた。
2020.2.10