居場所でありたい
『おかえりなさ、っ、い!』
「おォ。」
任務から帰ったと思ったら突然倒れこむように私を抱きしめる実弥さんに驚くも倒れないよう支える。
ただいまの一言もなしに私の肩に顔を埋めているところを見るに、お疲れのようだ。
あれだけ強くて、さらに毎日の鍛錬を欠かさない実弥さんでも、たまにこのように疲れた身体で帰ってくる。鬼を殺すとは自分では想像を絶するものなのだろう。
私にできることは何だろう。
『あの、ご飯できてますが、お休みになられますか?』
「、、食う。」
『そ、そうですか。』
顔を私の肩に埋めたまま動かない実弥さんは更に体重をかけてくる。
頼りない足で踏ん張るももう限界だ。
だからといって私がここで踏ん張れなくなると実弥さんごと倒れてしまう。
なんとか踏ん張らねば、、と気合を入れ直しそうとしたときに聞こえたのはくつくつと笑う声。
『さ、実弥さんわざとでしょ!重いです!』
「弱っちぃなァ。」
声を上げるとやっとこさ解放された。
玄関から居間へと移動すると、いつものように実弥さんは口を開く。
「変わったことはねぇだろうなァ?」
『はい、、あ、お皿ひとつ割りました。』
「正直でよし。」
『わあ。』
「とはいかねぇぞォ。」
『ぎゃー。すみません!』
やっぱりか!と謝るも怒っているわけではないということが表情から伝わりほっとする。
慌てて謝る私を見る表情は柔らかく、優しい。
「怪我は。」
『ないです!その、実弥さんは、、』
「ねぇ。」
『よかった。』
実弥さんの言葉にほっと胸を撫で下ろす。
無事に帰って来てくれることが何よりだ。
「なまえ。」
『はい!何でしょう。』
ほっと一息ついた後、ご飯の準備に取り掛かろうとしたところに声をかけられ振り返る。
「こっち。」
座布団に腰を下ろした実弥さんは手招きをして私を呼んだ。
呼ばれるがままに近づいて隣に腰を下ろすと、こてんと膝に感じる重み。
私の膝に頭を預け、目を閉じる実弥さんの顔を覗き込み、つんつんとした髪の毛に触れる。
突然の膝枕に、甘えているのかと思うと自然と緩む頬。
『お疲れですか?』
「おォ。まあ、お前のその気の抜けた顔見てっと疲れも取れるわ。」
『えー、失れ、ん、、。』
言い返そうとしたところ、頭を持ち上げた実弥さんに唇を塞がれる。
ちゅぅ、とゆっくりと吸い付かれるととろけてしまいそうな頭。離れていく実弥さんの顔は少し意地が悪い。
「いつでもちゃんといい子で待っとけってこった。」
『っ、、はい。』
鬼を殺さないなら、せめてあなたの帰る居場所でありたい。そんなことを考えているところ、再び降ってきた唇にただ身を任せるのだった。
2020.2.5