不死川さん | ナノ

7.雨に



その日は快晴だった。





『ありり、、』





目当てのものを買い店を出だ途端、先ほどまでの快晴と打って変わって分厚い雲に覆われた空からは無数の雨粒が落ちてきてため息をつく。




昼間だというのに、分厚い雲に覆われた空によって辺りは薄暗くなり、外にいた人は頭を隠して建物に入ってゆく。






お砂糖が切れてしまったのに気づいたのは昼食を作っている途中だった。

いつものように昼食を召し上がり鍛錬のために刀を振るう実弥さんに砂糖が切れた旨を伝え町に買いに来たはいいものの、雨なんて降るとは思っても見なかった。





それにこの分厚い雲。なんだか心まで暗くなってしまう。





先日の義勇さん事件(と呼んでいる) 以降は特に変化もなく平和にお仕えができていると感じる。


変わったことといえば、主人の呼び方が実弥さんに変わったくらいだ。


苗字から名前呼びを許されたということで、少しは女中として認めてもらえたのかと嬉しい限りである。



しかし相変わらずそれ以上に実弥さんのことを知ることはできなかった。

義勇さん以来、訪問者もいない。

いたとしても、接触はできないのだが、、。






そんなことを考えながら少し雨が弱まるまで店の前で雨宿りをすることを決意。




実弥さんはああ見えて家事ができる。


きっと私が干していた洗濯物も取り込んでくれているだろう。申し訳ない。




私のことは考えてくれていたりするのだろうか。雨を心配してくれてたりして、、ないか。






名前呼びによって、少し近づけた気がしても、相変わらず仕事のことなどを教えてもらえないことに落胆する。自分から聞いたわけじゃないのだから、教えてくれなくても自然なのだが。







出会った頃に、「鬼を斬る」「鬼殺隊」という仕事内容を少しだけ教えてくれたが、ひとつもぴんとこなかった。私のその様子が分かったのか、実弥さんもそれ以上は何も言わなかった。





鬼を見たこともない私にはなんだかぴんとこない話であるとしてもおかしくないと判断したのだろう。





実際ぴんとこない。鬼なんて見たこともないからだ。




しかし、実弥さんの立派なお屋敷や、充分なお金があること、鍛錬や刀の手入れを欠かさないこと、そして同じような身なりをした義勇さんに出会ったことなどから、鬼殺隊とはこの世界においてとても重要なものなのだろうと考えた。







以前雨は止まず、分厚い雲が空を覆う。





実弥さんは日暮れに厳しい。



日が暮れる前に家に戻ること。という言いつけだけはなんとしても破るなと言うように毎度のこと威圧感たっぷりで言い聞かせてくる。







今何時だろうか。そんなことも分からなくなるほどに辺りは薄暗く、止みそうになければ怒られることを覚悟して濡れて帰ろうかとも考えていたとき、今まで生きてきた中で聞いたこともないような叫び声が耳を貫いた。



女性の叫び声だ。




「や、やめてえええええええええええぎゃあああああああああ」





『えっ、、なに、、』




叫び声が聞こえたのは向かいの店の中。


それとともに何か、咀嚼音のようなものが聞こえ、なんとも気持ちが悪く、身体が固まってしまったように動けない。





「おっ、鬼だ!!鬼だーー!!!」






次に聞こえたのは道を挟んで向かいの店から出てきた男の人の声。




そして目に入る。長い腕と鋭い爪。





「や、やめろ、やめろおおおおおおぎゃあああああ」






店から出てきた男性の腹には鋭い爪が突き刺さり、あっという間にまた店へと引きずりこまれてしまった。







なにがなんだか、なんだ、なんだろう、、





『に、逃げなきゃ、だ、。』




そう思っても身体はなぜか動いてくれない。







「ほう。美味そうな女だ。」





案の定、店からはこの世のものとは思えない形相の生き物が出てきてこちらを見据えて笑っている。





あれが、鬼。






手にしていた買ったばかりの砂糖の袋が下に落ちる音も聞こえず、ただ鬼の長い腕に絡まれた自分の腕を見つめることしか出来なかった。



2019.12.16


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