6.あつく呼んで
我慢しようと思っても涙は溢れてしまうんだななんて呑気なことを考えながら、しかしその心とは裏腹に溢れ出す涙を止めようときゅっと瞑った目に不死川さんを移すことはできない。
悲しい。
ここまで怒らせてしまった。
命の恩人で、大切で、大切な人を。
不甲斐ない。悲しい。
追い出されたくない。捨てられたくない。
でもこれ以上、不快な思いもさせたくない。
潔く出て行こう。そう思い薄っすらと目を開けると、先ほどと同様に怒りといらつきを含ませた表情の不死川さんの顔。
しかし、先ほどと違い何か思案しているような、そんな目で未だ私を睨みつけている。
「なまえ。」
『はぃ、、不死川、さん、、』
名前を呼ばれ、返事をする。
不死川さんに名前を呼ばれるのが好きだった。
乱暴で、荒っぽそうに見えて、とても優しい不死川さん。
名前の先に「出て行け」という言葉が聞こえることを確信し、我慢していた涙がまた溢れ出してしまう。
『ごめんなさい。不死川さん、、、今までありが「実弥。」、、え?』
「実弥だァ。言ってみろォ。」
『えっ、はっ、、』
「早く言えっつってんだクソがァ!!」
『は、はいっ!さ、実弥、さん!!』
「よし。」
『え、、』
何が起こったのか。
満足そうに、よし、と言った彼は私の腕を掴んでいた手を離し、乱暴に親指で私の涙を拭ったと思うとやっと組み敷いていた体を離してくれた。
え、いや、どういうこと、、、?
『わ、私を追い出すんじゃ、、?』
「うるせぇよ。風呂だ。とっとと沸かしやがれェ。」
『は、はいっ!ただいま!!』
突然振られた命令に、頭の混乱は収まらないままに風呂場へと向かう。
何だったのだろう。しかし、追い出されずに済んだのか、、?
これからは、言いつけは絶対に守ろうと決意し湯を沸かすのであった。
2019.12.16
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