4.あかねいろ
「なんか変わったことは無かっただろォなァ?」
『はい!なにも!!』
任務から帰宅後、決まって不死川さんが聞いてくるセリフにいつものように返事をする。
夕方に帰宅した不死川さんは「鍛錬だァ。こい。」と言っておはぎを一つ頬張りながら庭へと向かわれた。
その後ろにつき、いつものように羽織を脱ぎ腕立て伏せをする不死川さんの背中に乗る。
今となってはお決まりの鍛錬だが、初めて背中に乗れと言われた時は驚いた。
さすがの不死川さんでも、私を乗せて腕立て伏せなんて、、、と案ずる私の心配とは裏腹に、不死川さんは息ひとつ乱さず腕立て伏せをする。
私はというと、その背中から落ちないように必死だ。
落ちないように、滅という文字が刻まれた不死川さんの隊服をきゅっと掴むと彼の体温が伝わり少し恥ずかしい。
「そうかァ。」
『あっ。』
返事をする不死川さんに、先ほどの訪問者のことを言い忘れていたと気づき声をあげた。
『そういえば先ほど、富岡義勇さんがお見えになって、文を届けていかれました!』
「あ?」
『っ、、すぐにお伝えせずで申し訳ございません、!』
義勇さんというワードになぜか怒ったように反応した不死川さんに驚き落ちないようにと隊服を掴む手に力を込めた。
やっぱり帰宅されてすぐに伝えるべきだった!
きっと大切なご友人か何かなのだろう。
きちんともてなしたことをお伝えせねば。
『文を預かっております。不死川さんがご不在だと伝えると、文をお書きになるとおっしゃったので、お茶とおはぎをお出ししました。』
「……」
『おはぎは美味しいと褒めていただきました!』
美味しそうにおはぎを頬張ったあと、褒めてくださった義勇さんを思い出し少し頬がゆるむ。
「……」
『義勇さん、口いっぱいに頬張っていらっしゃっーーーっ!?』
私は気づいていなかった。
私の話を聞く不死川さんの腕立て伏せがとまっていたことに。
何が起こったのか。
急に感じた浮遊感に反射的に目を瞑ると腰に軽い衝撃。
頭の裏にはなにやら手が添えられ、そーっと目を開けると夕焼けに染まる綺麗な空と、今までに見たことのないような顔でこちらを睨みつける不死川さんの顔。
押し倒され睨みつけられているが、頭に添えられた不死川さんの手によって頭を打つことは無かったのだと混乱する頭で考えた。
もう片方の手は私の顔の横につき、まっすぐに見下ろされた瞳はギラギラと光っている。
怒ってらっしゃる、、というレベルではない。
『し、不死川、さ、ん、、、』
「なまえ。てめェはよォ、、」
やばい。やばい。
やっぱり、人を家に入れるなとう言いつけを破ってしまったことを先に謝るべきだったか。
いや、もう破ってしまってるのだからその時点で怒られるのだ。
「随分嬉しそうに話すじゃねェかよォ。富岡に褒めてもらえて嬉しかったかァ?なァ?」
やっぱり。やっぱり。
不死川さんの知り合いなのでセーフという私が勝手に考えた生存ルートを公式だと思い込んでしまっていたのが間違いだった。でも、、
『い、言いつけを守らず、申し訳ありませんでした、っ!!しかし、、っ』
嬉しかったのは、違う。いや、たしかにそれも嬉しかったのだが、そこじゃない。
『嬉しかったのは、不死川さんのお仕事を、少し、知ることが出来たような気がして、、』
「…」
『あなたに、少し、近づけたような気がして、、っ、』
そこまで言って耐えきれず溢れ出した涙で滲んでしまったのは不死川さんの顔とあかねいろの空だった。
2019.12.16
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