3.なにもなんでも
「俺が出たらすぐに鍵を閉めろォ。」
『はい!』
「誰か来ても戸は開けるんじゃねぇぞォ。」
『はい!』
「飯はきちんと食ぇ。」
「金はいつものところにあるから足りないものは買え。」
「日が暮れたら外には出るな。絶対に、だァ。」
『は、はいっ!しっかりと留守をお守りいたします!!』
「おォ。明日には戻る。行ってくらぁ。」
『いってらっしゃいませ!!』
昨日、畳み掛けるように私に注意事項?を言った後、ぽんぽんと私の頭を撫で任務に向かわれた不死川さんを思い出す。
私はどれだけ信用がないのだろう、、いや、頼りないのか。
と落ち込みつつ、彼の好物であるおはぎをこしらえる。
仕事柄、屋敷にいないことの多い不死川さんは、任務に向かわれる前は毎度のこと私にきつく注意事項を述べてから向かわれる。
女中になって3ヶ月、いつになったら安心して留守を任せてもらえるのだろうかなんて考えた。
「失礼する。」
『えっ、』
そんなことを考えていると、急に庭から聞きなれない声が聞こえ、驚いた。
急いで縁側へと向かうと、見慣れない1人の男性が立っていた。
無表情だが、どこか優しげな雰囲気を持つ男性。
「呼んだが返事がなかったので入らせてもらった。ここは不死川の屋敷で間違いはないか?」
『は、はい。そうですけど、、』
やばい。やばい知らない人を入れてしまった、、
ただけさでさえ信頼されてないのに言いつけ守らないなんてばれたら殺される、、。
いや、待てよ。向こうは不死川さんのことを知っているっぽいぞ。そうか、不死川さんの知り合いか、ならだいじょ「不死川はいるか?」
どうにか不死川さんに殺されないというルートをたどるため、頭の中で言い訳を考えていると、再び無表情のまま声をかけられ我にかえる。
『あっ、すみません。不死川さんは今任務に行かれています。私は女中のなまえと申します。失礼ですが、どちら様でしょうか、、。』
「失礼した。富岡義勇という。お館様の命で不死川に伝えることがあって来たのだが、、。」
『そうなんですね!不死川さんは本日戻るとおっしゃっていたのですが、、私でよければご用件をお伺いしましょうか?』
そういうと、黙ってしまわれた富岡さん。
無表情のままだが、どうやら考えているようだ。
沈黙が流れ、少し緊張する。
「文を書かせてもらってもいいか?」
『は、はいっ!どうぞ!』
考えがまとまったようで、口を開いた富岡さんの言葉に、沈黙に耐えられず冷や汗が出てきた私はよく考えもせずに二つ返事で居間に招き入れてしまった。
不死川さんが不在の時に人を屋敷に招き入れるのは初めてだ。
ばれたら、、いや、不死川さんの知り合いだから、、、、とまた言い訳を考えた。
『よかったら、どうぞ。』
「すまないな。」
お茶と、出来立てのおはぎを出すと、富岡さんはもぐもぐと食べていた。
無表情の整ったお顔や、立派な刀を携えたお姿に比べ、おはぎを頬張る様はなんだかかわいく見えて、頬がゆるんでしまった。
「なまえ、といったか。」
『は、はいっ!』
「うまい。感謝する。」
『も、もったいないお言葉です。富岡さま、ありがとうございます。』
その無表情から、不意に伝えられた賛辞にとても嬉しい気持ちになった。
「義勇でかまわない。これを不死川に頼む。」
『は、はいっ!義勇さん。承知いたしました。』
にっこりと微笑むと、義勇さんの表情も少し和らいだ気がした。
不死川さんのお仕事の方と少し親しくなれたような、不死川さんに一歩近づけたような気がして胸があたたかくなった。
義勇さんは刀を持って立ち上がると、また庭から出ていかれた。
急いでお見送りに出ると、もうその姿は見えなかった。
おはぎを頬張る姿を思い出し、再び胸にあたたかいものが込みあげた。
2019.12.14
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