27.大切な君が
腕の中でぽつりぽつりと言葉を発しながら涙を流すなまえ。
そんな姿を目に入れながら沸々と胸の底から溢れ出すのは怒りという感情。
俺の不在中とはいえこんなにも大事なことを黙っていたことにも、接吻を拒否したことにも、話しながら俺を見ないことにもイライラして仕方がない。
何より、俺がいない間に涙を流していたことに。
全てを話し終えたのか、きゅっと目を瞑って涙を堪えるなまえ。
その姿に堪えられず、勝手に動いた身体は勢いよくなまえを押し倒した。
『っ、、!?さ、実弥さんっ!?』
突然のことに驚いたのか、目を見開いて声を上げるなまえを見下ろす。
目が合っては、気まずそうに赤らめた顔を逸らそうとするなまえ。頬に手を添えてそれを阻止すると潤んだ瞳が俺だけを映すことに充足感を覚える。
「何ですぐ言わなかったァ。」
そう問うと、再び潤んだ瞳は目を逸らそうと下を向く。
『め、迷惑、かけたくなくて、、それに、死んだはずの人間って知られたら、その、嫌われてしまうかも、って、、』
逃げられないと分かったのか、観念したようにぽつりと零された言葉に、また沸々と怒りが込み上げる。
「あァ?」
『っ!!だ、だって、私は死んでいるんですよ!生きてちゃいけない人なんです!この世界にいていい証がなにもない!!』
珍しく声を荒げるなまえ。
こいつは何を言っている?
この世界にいていい証が何もないだと?
「ってめェはよォ!!!」
『っ、、い、痛い、、』
抑えられない怒りに、思わず掴んだなまえの細い腕は任務前とは比べ物にならないくらい痩せ細っている。
「この世界にいていい証!?死んだ人間!?
はっ!関係ねェだろォがァ!!俺のモンにしてやっただろォが!!!」
『っ、、、!』
俺の言葉に、驚いたように目を見開くなまえ。
それと同時に赤くなっていく顔に、潤んだ瞳。
気に食わねぇ。
『えっ、、!それって、、いや、え!!』
「チッ、何度も言わせんじゃねェ。クソめんどくせェ女だなァ。」
『い、いや!だって、その、実弥さん、何も、、!
んっ、、!』
顔を一気に近づけると、荒々しく唇を奪う。
初めて唇を重ねたあの夜と同じく、ふにふにと柔らかい感覚に頭がくらりとする。
それはなまえも同じなのか、身体から力が抜けていくのが分かる。
なまえから一筋零れた涙と共に唇を離すと、潤んだ真っ赤な目で見つめるその瞳。
『ずるいです。分かんないです。こんなんじゃ、、』
「あァ?」
『、、、。』
じとりと見つめるその瞳がなにを言いたいのか、何を求めているのか容易に想像はできる。
分かりきっているだろうが。と言ってやりたいところだが、初めて見せるこいつの欲しがる目に根負けする。
はぁー。と息をついて潤んだその瞳を見つめる。
「お前が好きだ。なまえ。一生俺のモンだァ。」
2020.1.31
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