26.星空に
「とりあえず帰るぞォ。」
と言って実弥さんは私の荷物をさっとまとめると自身の羽織を私にかけ、私を抱えて屋敷まで走り出した。
私はというと、夢からずっと放心状態だ。
実弥さんの腕に抱かれ、ただぼぅっと過ぎていく夜空を眺めていた。
痛くて怖くて苦しかったあの夢に対照的に、抱かれる腕はあたたかく、まだ夢を見ているのではないかとも思う。
しかし、頬に感じる夜風の冷たさに、これが夢ではないとだんだん気づいてくる。
「着いたぞォ。」
『あ、はい。すみません、、』
屋敷に着くと私を座布団の上に下ろした実弥さんは、私の部屋へ行き布団を敷いてくれていた。
任務帰りで疲れているはずなのに、申し訳ない。
『す、すみません。』
「まだ暗い。寝とけェ。」
そう言うと実弥さんは、座り込んでいる私に手を伸ばしてくれた。
その手を握ると、夢の中であったようにすっと引かれ、抱きしめられる。
あたたかい。
長期任務のため、久しぶりに感じる実弥さんの香りと体温。夢とは対照的なそのあたたかさに胸がきゅっとあたたかくなる。
『私、もう起きますね。実弥さんは任務でお疲れだと思うので、お休みなさってください。』
「、、、はぁーーー。」
『、、?』
なんとなく、もう眠りたくはなくて発した私の言葉の後、頭上で聞こえた大きなため息。
顔を上げると、呆れた顔でこちらを見る実弥さん。
「ほら。」
『え、、、?』
抱き合っていた身体を離し、腕を引かれたと思うと私の布団へと入る実弥さんに目を丸くする。
『ん、、?、、っ!!』
訳もわからず膝をつくと、再び強く引かれた腕に身体ごと実弥さんの腕に閉じ込められてしまう。
布団の中で。
「こうしてりゃ悪い夢も見ねぇだろォが。」
『っ、、いや、これはその、、』
「うるせぇ。寝ろ。」
布団の中で抱きしめられる、という状況に顔に熱がたまる。
その距離に恥ずかしくなり顔を実弥さんの胸に押し当てると、優しく頭を撫でてくれた。
だからといって眠気は訪れず、ドキドキと高鳴る心臓の音が相手に聞こえませんようにと祈るばかり。
そんな時に、そっと実弥さんが口を開いた。
「何があったァ。」
『っ、、、』
頬に手を当て顔を上に向けさせられると目が合ってしまい、逃げられない。
話したら、迷惑をかけてしまう。
もしかしたら、嫌われてしまうかもしれない。
天元さんのいう通り、実弥さんはそんな人じゃない。
頭では分かっていてもなんとなく口に出せずに目をそらす。
ーーちゅ。
『ひぇっ!???』
そんな風に考えに更けていると、突然おでこに触れた感覚に驚き悲鳴をあげてしまった。
いやいやいやいや!!ちゅって!!
「色気ねぇ声出してんじゃねぇぞォ。言わねぇなら次は口だァ。」
『っ!!わ、分かりました!話します!ストップ!ストップ!』
そう必死で対抗すると、なんとなく機嫌の悪そうな実弥さん。
ますます話しづらい、、。
「チッ。おら、話せ。」
『はい、、。その、私、死んじゃってたんです。』
「、、。」
『夢を見たんです。それで思い出しました。元の世界の。自分が、、、し、ん、死んで、しまった、、っ、、こと、、っ、』
あぁ。なんでだろう。
天元さんに話した時は泣かなかったのに、なぜか今度は涙が溢れてしょうがない。
怖くなって、実弥さんの顔を見ることができない。
私はもう死んでしまった存在。
もし実弥さんに受け入れてもらえなかったら、、、。
そう思うと溢れ出して止まらない涙。
嫌われたくない。そばに置いておいて欲しい。
溢れる涙にきゅっと目を瞑った。
2020.1.24
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