25.光と闇と
蝶屋敷に着いたのは夜も更けきった頃だった。
屋敷の主には連絡を入れ、目当ての女を連れに来たのだが思ったよりも遅くなってしまったことに舌打ちを一つ落とす。
だからといって、もう次の朝を待つ余裕なんてもんもなかった。
人々が寝静まった屋敷の中を、なまえの気配を辿り進む。
約1ヶ月間の長期任務中、必要最低の手紙のやりとりのみだった相手の顔を思い浮かべてははやる気持ちに足が速くなるのが分かる。
あの気の抜けた笑顔も、細い手も、全てを自分のものにしてやりたくてたまらない。
『ぅ、、ぁ、、い、いや、、』
そんなことを考えながら足を進めているうちに一つの扉の前から聞こえた声。
紛れも無い、なまえの声。しかし唸るような苦しむようなその声に肝が冷え一気に扉を開けると部屋に飛び込んだ。
「なまえ!!!」
『うっ、、いや、、』
目の前には、ベッドに横たわり涙を流しながら唸るなまえの姿。
助けを求めるように伸ばされた腕は、力なく宙を切っている。
「っ!なまえ!なまえ!!!おい!!」
その手を優しく握るとぴくりと跳ねた身体を、腕ごと引っ張り自身の腕に閉じ込める。
悪夢でも見ているのか?
今まで一緒に暮らしてきたが、こんな姿は見たことがない。
自分が不在の間に、こいつに何かあったのは間違いない。
そう認識すると、何も言わないこいつと、何も知らなかった自分に腹が立つ。
しかし今はこの状況をどうにかしなければならない。
苦しむこいつの顔なんて1秒たりとも見たくない。
「っ、、!なまえ!!」
必死で名前を呼び、悪夢から覚まそうとする。
名前を呼び続けると、ようやく薄っすらと開いた目。
なまえは俺を視界に捉えた途端に大きく目を開けた。
まん丸なその瞳から絶えず流れる涙と、はぁはぁと荒くなった呼吸。
「なまえ。」
『っ、、!』
「もう大丈夫だァ。俺がいる。」
『っ、、はぁ、はぁ、、さ、実弥さん、、?』
「おう。帰ったぞォ。」
『っ、、!!実弥さんっ!実弥さん!』
「待たせたなァ。」
胸にしがみつき声を殺して泣きじゃくるなまえをしっかりと抱きしめてやった。
2020.1.23
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