23.手を伸ばしても
自らの死と直面したあの夢から二週間が経った。
なんとか動けるようになり、蝶屋敷でのお手伝いとして世話しなく動くことで考えないようにと努めながら過ぎ去る日々。
元の世界で私が死んでいたことなんてどうでもいいかのように、いや、実際どうでもいいのだろうが、当たり前に過ぎていくこちらの世界の日常。
相変わらず長期任務から戻ることのない実弥さんに、弱った姿を見せずに済んだことはラッキーだったかもしれない。
相談できる相手もいなければ、心が晴れることはなく、寂しさやら怖さやらから涙で布団を濡らす夜が続いていた。
こんな時、いつもはどうしていたんだっけ。
いつまでもくよくよしてちゃいけないなと、いつものように洗濯したシーツを一枚一枚丁寧に干しながら考える。
思い浮かぶのは大好きな友人の顔と、甘いリュールを甘いジュースで割った好きなお酒。
そのどちらともにもう一生触れることはないと思うと、寂しさは止まらない。
『はぁ、、、。』
「ド派手にため息なんかつきやがって、どうかしたか?」
『ぎぇっ!?』
誰もいないはずだった自分の後ろから聞こえた声に、びっくりして振り返ると派手な装飾に鬼殺隊の隊服。
咄嗟に出た私の変な声が面白かったのか、思ったより至近距離にいたのはくつくつと笑う天元さん。
なんか、前にもこんな事があったなあなんて思いながらその時と同じように文句を垂れた。
『びっくりするじゃないですか!もう、気配消して来ないでください!』
「わりぃ、わりぃ。おもしれーな、お前は。」
未だに笑っている天元さんになんだかこちらまで曇った気持ちが晴れていくように感じた。
「それで、どーしたんだよ地味に浮かない顔して、ため息なんかつきやがって。」
『う、浮かない顔なんてしてないですよ!』
「ふーん、、、」
いけない。と思い急いで否定すると納得いかないと言った顔でこちらを見る天元さんに、堪らず目をそらしてしまう。
「あのなあ。」
蝶屋敷のみんなにも、心配かけないようにと努めていた。私のことだから、誰にも迷惑なんてかけられない。私の話をしていい人なんて、相談していい人なんてこの世界にはいない。強くいよう。
その思いとは裏腹に、下を向いて俯いて俯いてしまう。
そして、頭にぽんっという感触。
「泣きそうな顔しで言われても、説得力あるかよ。」
『天元さん、、。』
「おー、話せ話せ。ド派手に悩みなんて吹っ飛ばしてやらぁ。」
やっぱり私は弱い。
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「なるほどなあ。んなことがねぇ。」
『もうほんとに、すみません。こんな話信じて頂かなくても大丈夫ですので、、』
この世界に来たこと、そして、元の世界では死んでしまっていたこと、ゆっくりと話している間、じっと見つめながら聞いてくれた天元さん。
よく考えたらこんな話信じてもらえるかわからないのに、なんで話してしまったのだろう。
しかし、人に話すというのはそれだけでこんなにも心が軽くなるのか。というほどに心は軽い。
話す間も意外と涙は出なかった。人に話したことで、自分の状況を客観的に捉えられたのかもしれない。
「嘘偽りを言ってねぇことは目を見たら分かるんだよ。不死川にだって、言ってんだろ?」
『あっ、はい。』
そういえば実弥さんにも初めは怪しがられてしまったが、私の話を嘘だと言ってくることはなかった。
『実弥さんは現在長期任務でして、、まだ元の世界で死んでしまっていたことは言えてないんです。』
「なるほどな。だから二週間も経ってやがるのにこのザマなのか。」
『え?』
「ひでぇ顔だ。飯はちゃんと食ってんのか?不死川が見たら怒られるぞ。ブサイクだってな。」
『ええっ!!ぶ、ブサイクだなんて!ひどいです!!!』
そんなにやつれていただろうか、、、
「お前はそんくらい威勢が良いほうが似合ってんぞ。」
ははっと派手に笑った天元さんにつられて笑ってしまう。
こんな風に笑うのはいつぶりだろうか。
「そうだそうだ、笑っとけ!元の世界で死んでたって関係ないだろ。今のお前はお前なんだからな、なまえ。」
『はい、あの、ほんとありがとうございます。』
「いい。いや、俺はてっきり不死川に手でも出されたかと、、
『はぁあ?!?』
天元さんへの感謝の気持ちを噛み締めているところ、突然何を言い出すか!天元さんの言葉に思わず声を上げてしまった。
「ほーほー、なるほど、なるほどねぇ。もう答えも出きってんじゃねぇか。」
顔に熱が溜まっていくのを感じ、手で顔を覆う私を見てニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる天元さん。
彼のからかいに久方ぶりに思い出したのは大好きな実弥さんとのキスのことだった。
2020.1.17
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