不死川さん | ナノ

22.遠くの空まで


藤の花の家紋の屋敷。
用意された一室に入ると綺麗に敷かれた布団に朝日が差し込んでいた。


今日の調査はここまで。
疲れた体を横に倒し見上げる天井。


夜になればまた調査だ。

なかなか鬼の尻尾を掴むことができないことに苛立ちが募る。



同時に頭に浮かび上がるのは一人の女。



髪飾りをつけてやった時に赤く染めた頬。

花火を写したまん丸い瞳。

俺のそばにいれて幸せだと言った声。




堪らず自分の物にした時に触れた唇の感触。

真っ赤に染まった顔。





先日の祭のことを思い出し、ふーっとため息が出た。


自分らしくない。


大切なものができても、失ってしまうのは一瞬だ。


だからもう、大切な存在はいらない。




そう考えていた。

それがどうだ。


放っておけなかったのか。ちがう。

あの女を、なまえを自分だけの物にしたくてたまらなかった。





「、、、チッ。」





無意識に零した舌打ちは誰の耳に入ることもなくただ部屋に響いた。







あいつはきちんと蝶屋敷へ行っただろうか。
飯はちゃんと食っているだろうか。



任務に出てから今日で1週間。
ころころと変わるなまえの表情を思い出してはなぜかイライラが募る。


なんてことない。原因も分かっている。



「どんだけ惚れてんだ。クソ。」




今夜こそケリをつけてなまえを迎えに行こう。
なんてまた自分らしくないことを考えそっと瞳を閉じた。




2020.1.15

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