19.君と花火と
購入した髪飾りを手に持ち、もう片方の手で私の手を引く実弥さんはずんずんと足を進め、気づけば人気のない少し開けた場所まで来ていた。
そこで急に足を止めた実弥さんにぶつからないように私も足を止める。
『実弥さん、、?』
立ち止まったと思うとそのまま何も言わない実弥さんに不思議に思い顔を覗き込むと目があってしまいなんだか恥ずかしい。
繋がれた手はそのままで、伝わる温もりは心地よい。
「なまえ。」
『はい、?、、っ!!あ、、ありがとうございます、ありがとうございます、、。』
名前を呼ばれ顔を上げると、実弥さんは私の頭に先ほど購入した髪飾りをそっと付けてくださった。
ただの女中であり、お世話になっている身でありながら、このような心遣いをいただいたことに上手く感謝の気持ちを言葉に出来ない。
そしてなによりも、実弥さんが、彼の愛刀と同じ綺麗な緑色の髪飾りを選んでくれたことに胸がいっぱいだ。
うれしい。
気持ちの高まりとともに涙腺が緩みそうになるのをぐっと堪え目線を下げる。
この間のパンケーキをいただいた際にもそうだが、私が涙を見せると実弥さんを困らせてしまう。
「緑は気に食わなかったかァ?」
『えっ!いえ!!!』
涙を堪えるため、表情が固くなってしまっていたのか、実弥さんに眉間を指で撫でられてしまった。
『ち、違うんです、、その、私も緑色が一番欲しかったんです、、それは、その、実弥さんの刀と同じ色で、、』
あぁ。恥ずかしい。
こんなこと言って気持ち悪がられないだろうか。
恥ずかしくて実弥さんの顔が見れない。
しかし、溢れる気持ちは止まらない。
いつも彼が握ってくれる手を、初めて私から取って握る。
彼の右手をそっと両手で包み込む。
ゴツゴツとした傷だらけの手は温かく、乱暴に見えて心優しい彼の人柄をそのままに表しているようだ。
私はいつも、この手に救われている。
『私は、その、、あなたにお仕えすることができて、あなたのそばにいることができて、本当に、本当に、幸せ者です。』
溢れる気持ちをそのままに言葉にすると、恥ずかしくて相変わらず実弥さんの顔を見ることができない。
彼は今どんな表情をしているのだろう。
その時だった。
ドンッ、という音とともに夜空に花火が上がる。
突然のそれに驚いて顔を上げた。
『わ、、綺麗、、、』
あまりの美しさに見惚れてしまう。
花火は元いた世界でも見たことはあったが、こんなに感動するものだったろうか。
色とりどりのそれは上がっては消え、上がっては消えを繰り返す。
『実弥さん、綺麗です、、ね、、、?』
直前に自分が言った恥ずかしい言葉たちのことを忘れ、花火にはしゃぎながら実弥さんの方へと顔を向けると驚くことに彼は花火には目もくれず、私だけをじっと見つめていた。
『さ、実弥さん、、?』
じっと見つめるその瞳に、こちらも目を離すことができない。
どうしたものか、と首をかしげると、距離を詰めた実弥さんは私の頬へと手を添えた。
依然、見つめられる瞳から目が離せない。
「なまえ。」
『は、はいっ、、』
どんどんと彼の顔が近づいてきて、顔に熱が溜まる。
赤くなった顔を至近距離で見つめられていると思うと余計にだ。
「お前は、一生俺のもんだァ。」
『えっ、はっ、はい!』
近づいて来る彼の顔に、耐えられずきゅっと目を瞑る。
この距離は、えーっと、、、
まさか、え、そんな、ね、、?
頬に添えられた優しい手に、逃げることも叶わずじっときゅっと目を瞑る。
一際大きな音とともに上がった花火。
同時に唇に触れた感覚。
目を開けると頬を染めた実弥さん。
状況が掴めず、感情の高ぶりと混乱から溢れ出た涙が頬を伝う。
頬に添えられた実弥さんの優しい指がそれを拭うと、再び降って来る優しい口づけ。
何が起こっているのか。
くらくらと目眩がするほどに優しい口づけに、ただただ応えることしかできなかった。
2020.1.7
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