17.ぽつん
人々の賑わう声と色とりどりのちょうちん。
この世界に来て初めてのお祭に心が躍る。
『すごい、、、お祭、元いた世界にもあったんですけど、こんなに賑やかだったかなあって!!すごく楽しいです!!』
「そうかい。」
隣を歩く実弥さんを見上げてそういうと、ぽんっと頭を撫でてくれた。
祭に行くために、と昨日実弥さんが用意してくれた浴衣に、気合を入れていつもより高い位置でまとめた髪の毛。
昨日は急に出かけられたと思うと、新しい浴衣を買ってきてくださったので驚いた。
申し訳なくて、受け取れません!と言うと少し怒られてしまったが、実弥さんが今日のために、私のために選んでくれたのだと思うと嬉しくてしょうがない。
本当に、一使用人にこんなによくしてくれるなんて、実弥さんはなんて出来たお方なのだろう、そして、私はなんて幸せ者なのだろう。
実弥さんは警備も兼ねて来ているんだから、浮かれすぎてはいけない!と分かっていてもふわふわと夢見心地だ。
『っ、!ぁ、、』
「っ、ぶねェなァ。」
そんな風に浮かれていると、案の定、小石に躓いてしまい実弥さんに支えてもらうはめしなった。
『すみません、ありがとうございます、、』
「忙しねェ奴だァ。迷子になるんじゃねェぞォ。」
『っ、はい!』
そう言って今度は繋いでくれた手に、またもや浮かれ気分だ。
実弥さんの傷だらけでごつごつとした手は、撫でられるのも繋がれるのも心地が良い。
人混みの中を実弥さんに手を引かれ歩いていると、次第に食べ物や小間物屋の屋台が見えてきた。
「チッ。鬼がいやがるなァ。」
その時だった。
急にピタリと立ち止まった実弥さんが呟いたのは。
『えっ、ほんとですかっ、鬼、、え、、』
「慌てんな、大丈夫だァ。まだ何も起きちゃいねェ。」
握られる手に力を込められたおかげで少し落ち着く。
たしかに、なにも騒ぎなどは起きていない。
おそらく、鬼の気配がするのだろう。
「人が多い、明るい所にいろよォ。絶対に1人になるんじゃねェ。」
そう、実弥さんはいつもの任務前のように私の目を見てしっかりと約束事項を伝えると、ぽんぽんと私の頭を撫でた。
『、、っ、、はい、、』
せっかくのお祭なのに、、、
鬼がいるなんて、人々は大丈夫だろうか、、、
なんて考えていると、顔が強張ってしまっていたのか、次に頬を撫でられた。
突然の距離感に、顔に熱がたまる。
「んなシケた顔すんなァ。これでなんか買って待っとけェ。すぐに戻る。」
『いや!頂けません!!って!!待って!お気をつけ、、て、、、』
懐からお金を出して私の手に握らせた実弥さんは、私の言葉も聞かずに目の前から消えてしまった。
祭と人々の賑わいから隔離されてしまったようにぽつんと立ち尽くす。
先程まで繋がれていた手のぬくもりが恋しい。
『実弥さん、、。』
心細さを胸に抱き、もらったお金をきゅっと抱きしめることしかできなかった。
2020.1.3
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いします!
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