16.変化する気持ち
庭で鍛錬をしつつ、手紙を書いているなまえを盗み見る。
落ち込んでいる、しかし落ち込みを隠そうとしている表情になんとも胸が締め付けられる。
「クソっ、。」
小さく呟き木刀を握る手に力を込めるとミシっと音がした。
手紙に目を通したときのなまえの表情が頭から離れない。
あんなに嬉しそうな顔しやがって。
宇髄の嫁に誘われたことが、そんなに嬉しかったのか。
それでもやはり祭に行くことは許せない。
祭が行われるのは夜。
宇髄が一緒ならまだしも、だ。いや、想像するとそれも腹が立つ。
あいつが、なまえが他の男に笑顔を向けている姿なんか想像したくもねェ。
手紙を書き終えたのか、鴉の足にそれを優しく結ぶと、なまえは鴉の頭やら体やらを撫でていた。
鴉は気持ちよさそうになまえの膝の上で転がっている。
「チッ。」
その光景にもなんだが腹が立ち、思わず溢れた舌打ちはなまえには聞こえていないようだった。
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『実弥さん、おかえりなさい!』
「おォ。」
宇髄の嫁からなまえに手紙が来てから数日が経った。
任務から帰るとぱたぱたという足音とともに笑顔で俺を迎えるなまえにほっとして頭を撫でる。
頭を撫でられ、いつものように心地よさそうに目を細めるなまえに、不在の間特に何も問題は起きてないと表情から読み取る。
「おい。」
『はい!なんでしょう!』
目線の少し下にあるなまえを呼びかけると、その丸い瞳が俺を捉えた。
「明後日の夜、祭の警備を担当することになったァ。」
『え、あ、そうなんですね!、、その、、』
なまえは始め、いつものようにただ俺が予定を伝えただけだと思っていたたようだ。
だが、はっ、と気づいたようにみるみると期待に満ちた目になっていった。
その表情に、内心胸を撫で下ろす。
祭に行きたいのではなく、宇髄の嫁と出かけたかっただけではないのか。と、俺らしくなく心配をしていたからだ。
「連れて行ってやってもいい。」
『っ!!!本当ですかっ!!!!』
「お前が行きたがっていたやつと別の祭だが、」
『そんなの何でもいいんです!〜〜っ!!実弥さんっ!ありがとうございます!!!』
やったあ!と子どものように喜ぶなまえに自然と頬が緩む。
俺らしくない。
なまえのこの表情が、なまえを笑顔のしたのが、他でもない自分だということに心地よい満足感に満たされた。
2019.12.29
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