不死川さん | ナノ

14.甘くてしょっぱい




『実弥さんっ!ご、ごめんなさい、、陰口言ってたわけじゃないんです、、』



蝶屋敷にて療養中の隊士さんたちからの挨拶には見向きもせず、私を担いだまま歩く実弥さんにすがる気持ちで謝罪を述べる。



恥ずかしいから、下ろして欲しい。




蝶屋敷の門を出て少し歩くと、やっとそっと下に下ろしてくださった。その手つきが優しく、少し安心する。




「分かってらァ。」



そう言ってぽんぽんと頭を撫でてくださった実弥さんは、いつものお優しい実弥さん。


その表情にほっと胸をなで下ろす。




「一人で泣いたりしてねェだろうな?」


『え、あっ、はい!今朝はすみませんでした。もう、本当に大丈夫ですので!』


「ならいい。」


『はい!』




そういうと、次は私の手を掴んで歩き出した実弥さん。


ぽかぽかと午後の温かい日差しのせいか、握られた手のせいか、気持ちもぽかぽかと暖かい。





『実弥さん、今日は任務などは、、』


「ねェ。」



私の手を引いてずんずんと歩く実弥さんに、置いていかれないように一生懸命についていく。


任務はない、、では朝からどこへ行かれていたのだろうか。





「ちっ、遅ェ。」


『う。ごめんなさ、っ、、え!』


「つかまっとけェ。」


『え、え、ええええええ!!!!』





ーーーーーーーーーーーー




一瞬だった。

蝶屋敷からの帰り、私を横抱きにした実弥さんは人間とは思えないスピードで屋敷へと帰った。


ジェットコースターでも味わったことのないスピードにくたくたになって玄関でヘタリ込む私を見て実弥さんはくつくつと笑っていた。ひどい。






「おら、いつまでヘタってやがる。」


『ひどいです実弥さん。一般人です私。』



そう言って膨れると、ほっぺをつんと指でさされ、再び横抱きにされ居間へと連れていかれた。



さっきはありえないスピードで気づかなかったが、横抱きにされると顔が近くて恥ずかしい。






『あれ、なんか、いい匂い、、』


そんなことを考えていると座布団の上に降ろされ、目の前に風呂敷に包まれた何かを置かれた。



それからは、なんとも甘い匂いがして目を丸くする。



「やる。開けてみろォ。」



『えっ、なんだろ、、、あ、これ、実弥さん、これ、、』



「たまたま隊士でよく食ってる奴がいただけだァ。」




風呂敷をあけると、包みにつつまれた小さなパンケーキが3切れ、さらに小瓶にははちみつが入っていた。



甘く、優しい香りに胸がいっぱいになる。



何より、実弥さんの優しさに。


私の今朝の話を聞いて、その隊士の方からもらってきてくれたのだろうか。



『さ、実弥さん、、っ』


「あ?、っ、なんで泣く、、」




そう思うと、緩んでしまう涙腺。

どうしてこの人は、こんなにも。こんなにも優しいのだろうか。


私を拾って、助けてくれて。こんなにも、心まで。



『ち、ちがっ、うんです。嬉しくて、、っ』


そう言うと、はぁーっと息を吐いた実弥さんは私の目の前にしゃがむと、手で頬を包み親指で涙を拭いてくださった。

ゴツゴツと、傷だらけの手がこんなにも心地よい。





蝶屋敷に行かせたのも、今朝の夢のことを聞いて、私が1人で余計なことを考えないようにだろう。



あぁ。私はなんて幸せなんだ。
どうしてこの人は、こんなにもあったかいのか。




「ちっ。んなんで泣いてんじゃねェ。」



そう言って、今度はぎゅっと抱きしめてくださった実弥さんに、再び涙が溢れてしまう。


『ありがとうございます。ほんとに、ほんとに、私は世界一幸せものです、、っ。』


「大袈裟だァ。馬鹿。」




一生かけても尽くしたい。



この世界にて初めて食べたパンケーキは、甘くて少し、しょっぱい味がした。



2019.12.23

イブイブです。
どぅわーーーっと書いたので、また修正するつもりです(汗)
お得意のキャラ崩壊が出てしまっており、ごめんなさい。しのぶさんも難しい、、!
不器用で拙い文書にお付き合いいただきありがとうございます。
続きます。

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