12.記憶の人たち
『あっ、、夢、か。』
す、と一筋の涙が頬を伝う感覚で目がさめる。
ちょうどそろそろ起きなければならない時間か、と身体を起こそうとするも気力が沸かず、布団の中で身体を丸めた。
幸せな夢を見ていた。元いた世界の夢。
目の前には大好きな大好きな友人と、甘いパンケーキ。
いつもたわいもない話で盛り上がり、美味しいものを食べ、楽しい時間を共有した友人。
この世界に来て随分と経ったが、元いた世界の夢を見たのは初めてだった。
『みんな、どうしてるかな、、、』
どうして私はこんなところにいるのだろう。
なんて考えても仕方がない。と思い頬を軽く叩いて気合を入れた。
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『おはようございます。』
「おォ。」
部屋から出てきた実弥さんに挨拶をし、朝食をお出しする。
夢のこともあり少し気分はさえないが、朝食はいつも通り美味しく作ることができた。
しかし、心にはわずかに残る寂しい気持ち。
友達に会いたい。家族は元気だろうか。
パンケーキも食べたい。
そんなことを考えながら自分の朝食の用意をしていると、向けられる視線に気づき、顔を上げる。
『さ、実弥さん?どうされましたか??』
「なにシケた面してやがる。」
『えっ、、』
驚いた。顔に出さないようにと努めていたはずなのに。
私の反応に、気に食わないところがあったのか、ずんずんとこちらにやって来た実弥さんに手首を掴まれてしまった。
実弥さんの鋭い瞳に見透かすように見つめられ、思わずぎゅっと目を瞑ってしまう。
「なんか隠してるんじゃねぇだろォなァ?」
『いや、ちがっ、違います!その、』
「あ?」
『ゆ、夢を見まして、、』
「夢?」
『はい、、その、元いた世界の、友達とパンケーキを食べている夢で、、』
パンケーキ、というワードの意味が分からないのか、少し眉を寄せた実弥さん。
『あっ、パンケーキというのは、西洋のおやつのようなもので、甘くてとても美味しいんです。その、それで、』
「元の世界が恋しくなった、かァ?」
『あっ、いや、その、、すみません。』
こんなによくしていただいているのに、元の世界が恋しいだなんて、、なんて事を言ってしまったのだろう、、、。
申し訳なくて、実弥さんの顔を見れず下を向いていると、頭上から「ちっ」という舌打ちが聞こえたとともに掴まれていた手首が離されてしまった。
「すぐに出る。お前は蝶屋敷にでも行っとけェ。」
『えっ!長期任務ですか?』
「うるせェ、とっとと飯食って準備しやがれェ。」
『いたっ!うぅ、はい、、。』
指で私のおでこを弾くと、実弥さんは朝食を続けた。
私はというと、わけもわからずじんじんと痛むおでこを押さえるのだった。
2019.12.23
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