11.ひみつのわたし
『すみません、付いてきていただいて、、』
「あァ。」
前を歩く主人の後ろをはぐれないように追いかける。
食材の調達に街へ行くと実弥さんに伝えると、めずらしく一緒に行くと付いてきてくださった。
前回の買い出しの際に鬼に襲われて、そのことを思い出し少し憂鬱な思いになっていることを見透かされたのだろうか。
はたまた、ただ実弥さんも用があったのだろうか。
一生懸命に後ろに付いていると、ちらっと振り返り私を見た実弥さんは、はァと一息ついて歩くスピードを遅くしてくださった。優しい。
「お!不死川じゃねぇか!!」
「あァ?」
目当ての店へと足を進めていると、不意に呼ばれた主人の名に後ろを振り返る。
『おっ、、?』
振り返ったと同時に「めんどくさい」と言うような表情になった実弥さんは私の腕を掴み、隠すように背中に回された。
急に腕を引かれたことにより、バランスを崩してしまいそうになりよろける。
腕は掴まれたまま、実弥さんの背中に隠されてしまったせいで不死川、と名を呼んだ相手を見ることができない。
「おいおい、そんな面しなくていいだろうが。せっかく会えたんだ。」
「ちっ、、」
「殺」と書かれた背中に隠れて見えないが、どうやら実弥さんのお知り合いのようだ。
親しげに声をかける相手に対し、舌打ちをする実弥さんに仲が良い相手なのかそうでないのか分からない。
「天元様ぁ、後ろに誰かいますよぉ。」
『あっ、、ぅ。』
声をかけた男性と、お連れの女性だろうか?
自分に向けられた声に背中からひょっこりと顔を出そうとすると「出てくんじゃねェェ。」と言ってまた手で頭を押さえて後ろに隠された。
「なんだ、隠すこたぁねぇだろうが。」
「ちっ、、、」
「わ〜、女の子ですね!」
『あ、あの、はじめまして。不死川さまの屋敷で女中としてお仕えしております。なまえと申します。』
さすがに隠しきれないと思ったのか、手を離してくださった実弥さん。
失礼にならないようにと挨拶をして頭を下げる。
大柄で、実弥さんや義勇さんと同じような隊服に、派手な装飾を身につけた男性と、綺麗な女性が3人。
4人とも目を丸くしてこちらを見ているので、なんだか少し居心地が悪い。
実弥さんはというと、さっきから舌打ちしかしていない上にとても機嫌が悪そうである。
『あ、あの、、』
「まさか、ねぇ、なるほど。不死川が、ねぇ。」
『え、、』
「鬼殺隊の宇髄天元だ。こっちは俺の嫁。
隊士たちが言ってたぜ。最近の不死川は任務が終わると休みもせずにすぐに帰宅するってよ。」
なるほどなあ。なんてくすくすと笑う天元さんの言っていることはよく分からないが、なんとなく気さくで良い方なんだと感じた。
「うるせェわ!おらっ!行くぞォ!」
『っ!!あ!その!ま、また!!』
「またじゃねェ!クソ殺すぞォ!」
天元さんのお言葉に、怒りのボルテージが満タンになってしまったのか、私の腕を引きずんずんと歩く実弥さん。
後ろを振り返ると4人が嬉しそうに手を振っていて、振り返そうと手をあげるとまた実弥さんに怒られてしまった。
2019.12.21
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