10.わたしと世界と
目の前でぐつぐつと煮えている鍋に先ほど切った具材を入れる。
あとは火を止めて味噌をといて、、。
みそ汁を作るのは元々得意だった。
料理は苦手ではなかった。だから今でもそんなに苦ではない。強いて言うならば、携帯で音楽を流したい。この世界にはそんなものはないので、仕方なく口ずさむのは元いた世界で好きだった歌。
鴉が実弥さんの帰りを知らせたのは数刻前のこと、そろそろ帰るだろうという時間に合わせて夕食を用意する。
よし、今日はご飯は焦がしていない。
この世界の料理にもだいぶ慣れてきた。
実弥さんに拾われた当初、『料理はできます!洗濯も!なんでもやります!』なんて言ったものの、手始めに炊飯器がないことには驚いた。料理場に通されてぽかんとする私を見て実弥さんがとりあえずブチ切れだったのを今でも覚えている。
それでも始めの数日間、丁寧にかまどの使い方や風呂の沸かし方などなど教えてくださったのだから、本当に主人はお優しい。
「戻ったぞォ。」
『おかえりなさい!!ご飯できてます!』
「焦がしてねェだろうなァ?」
『はい!今日は、なんとか、ぎりぎり!』
「んだそりゃ。」
呆れたように言う実弥さん。任務でお疲れのようでも私の言葉に少し微笑んでくれているような気もしてたまらなく嬉しい。
そのごつごつとした手でぽんぽんと頭を撫でられると心地よくて目を細める。
「変わったことはなかっただろうなァ?」
『はい!なにも!』
「ん。」
私の目を見ていつものように留守の間の確認をする実弥さん。
私の言葉に嘘でないと分かったのか、目を逸らして腰を降ろされた実弥さんに、『ご飯の準備をいたしますね。』と一声かけて台所へ向かう。
鬼に襲われた際、心配かけまいと恐怖を隠して強がって笑っていたことをひどく叱られた。
それからは実弥さんが不在の間にしてしまったケガや、お皿を割るなどの失敗も全て見抜かれてしまうようになった。
実弥さん曰く、「お前が何か隠そうとしてんのは丸わかりなんだよォ。」ということである。
『実弥さん、ご飯用意できまし、た、、あれ?』
「…」
部屋に呼びに行くと、実弥さんは座ったまますやすやと寝息を立ていた。
鬼は日光が苦手だなんだかで、鬼殺隊のお仕事は夜に行われると聞いていた。
夜に戦い、この時間まで徒歩で帰宅したためだろう。
そりゃ眠くもなるか。なんて整った顔立ちを盗み見る。
『タクシーなんてないですもんねぇ。』
なんて少し乱れた実弥さんの髪に触れようと手を伸ばす私は、かっと目を開いた実弥さんに腕を掴まれ怒られるのであった。
2019.12.17
そりゃ怒られるわ、、
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