不死川さん | ナノ

9.つかんではなして



「お、雨止みましたね!」




なんてヘラヘラと笑っているのは先程まで鬼に食われようとしていた女。


助け出してすぐは涙を流していたにもかかわらず、ケロッと笑っているもんだから気が知れやしねェ。







雲ひとつない快晴だった空から雨が降り始めたのはなまえが屋敷を出てしばらく経ってからだった。





突然の雨だ。あいつは傘を持ってはいないだろう。いやそんなこと知ったこっちゃねェな。



という考えとは裏腹に、羽織を羽織って傘を持った俺はなまえが向かった街へと足を向けていた。



最近は自分でもよく分からねぇ行動を取ってしまうことがある。特に、なまえに関して。



なんとなく、傘は一本でいいと思った。






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『すぐお風呂沸かしますね!』


なんてまたヘラヘラと笑うなまえを制してタオルで包み、火をつけたかまどの前に座らせる。




「1ミリも動くんじゃねェぞ命令だァ。」



『は、はい、、申し訳ありません。』





自身の髪もタオルで拭き、風呂の準備をして戻るとさっきより火に近づいて丸くなるなまえの姿。


寒いんじゃねェか。クソが。と舌打ちをする。





『何もかもすみません。実弥さんも寒いですよね、、』



「うるせぇよ。」





正直、街から叫び声が聞こえたときは肝が冷えた。


鬼に捕らわれたなまえを視界に捉えたときはさらにだ。



そして助けた後も恐怖で涙を流すなまえに、もっと早く助けてやればよかったと後悔が押し寄せた。





しかし、ヘラヘラ笑って人の心配をするくらいなら、大丈夫か。なんて思っていた。





「腕出せ。傷見せろォ。」



『はい。、、、っ、あ、あれ。』




前言撤回だ。全然大丈夫なんかなかった。






目の前に差し出された腕には傷がある。
しかし問題はその傷じゃない。


傷は浅かったのかもう血も止まっている。





問題は腕だ。


ガタガタと怯えるように震えた腕。
血の気を失ったように真っ白な手。





『あ、あれ、、なんだろう、、これ、すみません、っ』





よく見れば体も小刻みに震えている。
寒さからだけでは無い震え。




あぁ、俺は、なんて馬鹿なんだ。






『、、っ!さ、実弥さん、、?』




「隠すんじゃねェ。怖かったんだろォが。」






俺は鬼を斬るだけだ。事後の処理や被害者の手当て、特に心の手当ては隠の役目で知ったこっちゃねェ。




だからどうすればいいかは自分で考えた。






『さ、実弥、さ、ん、、ぅ、っ、、』



「ん。もう大丈夫だァ。」






震えるなまえの腕を引き、自らの腕に閉じ込め抱きしめれば安心感からか、なまえは嗚咽を漏らして泣き始めた。




早く助けに行ってやれなかったことにも、気づいてやれなかったことにもムカついて、自分に腹が立った。





『さ、さね、み、さんっ、実弥さ、ん、、っ、ぅ、、』



「あァ。」




『こ、怖くて、、っ、ぅ、死にたく、、なくって、、でも、、っ、、店の人が、、食われて、、っ!!』



「あァ。怖かったなァ。」



『私も、、く、食われるっ、、、もう、さ、実弥さんにっ、、会えないって、、ぅ、、っ、、』



「っ、。心配すんなァ。鬼は俺が全て殺す。」




俺の隊服を掴み、涙を流すなまえ。抱きしめる腕に力を込め、諭すように背中をさすってやる。


なまえの中にある恐怖を、少しでも少しでも消してやれるように。




2019.12.16



大正時代にタオルはないのでは、、、?



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