5 地球は二階建て
ぺらり、書類をめくる音だけが響く部屋。
紅炎様のお部屋で、書類整理のお手伝いをしている。
書類整理のお手伝いと言っても、とても簡単なもので書類の種類によって分類したり、紅炎様が目をお通しになったものをまとめたりするだけだ。
正直、私、要らないと思う。
しかし、紅炎様直々に命令されたので、従う他はない。
簡単な仕事とはいうものの、文官さんでもない私にはちょっと難しいときもある。
そういうときは紅炎様に聞くのだが、その度に「そんなのもわからないのか」とため息をつかれるので、この仕事はちょっと嫌いだ。
それならばはじめから文官さんにやらせればいいのに。
『…』
そして、この仕事はちょっと危ない。
何が危ないのかというと、眠いのだ。
紅炎様がお掛けになっている大きな机の前の小さなテーブルと椅子に、ずっと座りっぱなしの仕事。
それに、このお部屋はとてもあたたかく、大きな窓から入る日差しも心地が良い。
うとうと
だめだ、絶対に寝たらだめだ。
「…なまえ。」
『っ、はい!』
急に名前を呼ばれ、驚いて顔を上げると紅炎様は私を見て少しにやりと笑った。
なにか楽しいことでもあったのだろうか。
私はこんなに睡魔と闘っているというのに。
「眠いのか?」
『いえ!全然!全く!』
なにが面白いのかいまだににやにやしている紅炎様は、また視線を書類に移した。
紅炎様はよく眠くならないものだ。
私はというと、やっぱりまた睡魔と闘っていた。
んー、眠い。
うとうとして、時折頭を揺らしてしまう。
あぁ、私はもっと体を動かす仕事をしたい。
鬼ごっことか。
そんなの無いか。
あぁ、この大きな窓からすごいうさぎさんが入ってきて書類を全て分類してくれないかな。
なんてアホなこと考えてしまっているということは相当やばいんだなと思う。
読んでいた書類の文字も宙に浮いてきた。
これは相当やばい。
『…っ!』
睡魔がピークに達したとき、ぽすっと小さな音と共に頭に重みを感じ、顔を上げると目の前に紅炎様が立っていた。
『こ、紅炎様!す、すみません寝てないです寝てないです。』
「やはり、眠いのだな。」
そう言って、手を私の頭に置いたまま顔をじっと覗き込む紅炎様。
その顔はなんだか少し楽しそうだ。
だが、その距離はあまりに近い。
整った顔と力強い瞳に見つめられ、顔が熱くなる。
『っ!こ、紅炎様!私、書類出してきます!』
急いで立ち上がり、紅炎様がお済みになった書類を抱えて部屋を出る。
去り際に、半分に分けて持って行けと言われたが、大丈夫です!と言った。
心臓に悪い、ほんとうに。
2014.3.2
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