4 君の好きなもの
今日は人が少ないのか、書庫へと向かうまでにあまり人はいなかった。
それでも、すれ違った人はみんな驚いた顔で私を見る。
そりゃそーだ。
紅炎様が書庫へ行くのになぜ侍女が必要なのだ。
それなのに、私は書庫へと向かう紅炎様の後ろに続く。
薄暗い書庫には、人の気配は無く、しんとしていた。
しかし、さすがの煌帝国。
書物の数も半端でない。
小さい頃から書物を読むのが好きだった私は、少し目を輝かせる。
紅炎様はいくつかの書物をお持ちになると、明らかに紅炎様専用と言ったような椅子に腰掛けた。
すかさず読書灯に火を灯し、邪魔にならないように隅っこに立つ。
これもまた、朝に似てひどい状況だ。
静寂と緊張の二文字コンビはこんなにも私をいじめてくる。
いや、実際いじめてるのは紅炎様か。
紅炎様の意地悪。
でも今は、朝とは違い周りにたくさんの書物がある。
読みたいとは思うが、侍女の私なんかが読んでいい物ではない。
だけど、書物に囲まれているというだけで、なんだか少し嬉しかった。
周りをきょろきょろと見回すと、いろんな種類の書物。
題名だけしか見えないが、どれも面白そうな書物ばかりだ。
「おい。」
『!はい!なんですか?』
きょろきょろしてたの、ばれたかな。
いつも書物を読んだり書類に目を通しながら何かを命令なさるときは私を見ない紅炎様、しかし今は私の方に目を向けていた。
「気になる物でもあるのか?」
『あっ、いえ、別に!お気になさらず!』
相変わらず無表情の紅炎様。
読書の邪魔をしてしまっただろうか。
「読みたいものがあるならば、お前も読めばいい。」
『え、ほ、本当ですか?!』
「あぁ。こちらへ椅子を持ってきて読め。」
そう言うと紅炎様はまた書物へと視線を戻した。
私はというと、今すぐにでも飛び跳ねたい気分になった。
紅炎様、意地悪なんて思ってごめんなさい。
わくわくしながら書物をひとつ手に取り、小さな椅子を持って先ほどの場所へ行き、小さくなりながら書物を読んだ。
「なまえ。」
『…』
「おい、なまえ。」
『…!は、はい!』
いけない、書物に夢中になりすぎて、目の前に立っていた紅炎様に気が付かなかった。
「腹が減った。戻るぞ。」
『はい!』
書物を元の場所へと戻し、来た時と同じように紅炎様の後ろをついていく。
「お前、書物を読むのが好きなのか。」
『はい!小さい頃から知り合いによく読ませてもらっていました。』
私の家は貧しかったので、自分では一つも持っていないんですけどね。と笑うと、そうか。とまた前を向いて歩き出した。
書庫から出ると、辺りは暗くなっていて、結構の時間、書庫にいたんだなと思った。
途中で紅炎様と別れ、食堂に紅炎様のお食事を取りに行く。
さっき読んだ書物の内容を思い出し、心が踊った。
2014.3.1
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