27 気持ち





随分と眠っていたようで、目を覚ますと窓の外は薄暗くなっていた。



よく寝たせいか、左腕の痛みはまだあるが身体のだるさは感じない。






『はぁ…』





しかし、どれだけ寝ても変わらない現実に気分は重たいままだった。






今日は私の代わりに誰か他の侍女さんが紅炎様の身の周りのお世話をしたんだろうな。




書庫にも行ったのかなあ。
私になさるように、紅炎様は他の侍女さんにも頭を撫でたりするのだろうか。






なぜだろう。そんなことを考えていると、胸がもやもやとした。



この前中庭で姫様と紅炎様を見たときにと同じ気持ち。もやもや。












"紅炎様に媚び売ってるんでしょ。"





そして、昨日の言葉が頭に浮かぶ。






確かに紅炎様は私をお召しになることが多いが、そんな風に思われていたなんて思ってもいなかった。





私はいい。


辛いけど、私だけがこうやって意地悪されるのはいい。



だけど、紅炎様が悪く思われてしまったら、私のせいで紅炎様が不利になってしまうことがあったら…


そんなのは絶対許せない。









"紅炎様のお嫁さん候補"の女性はあの姫様だけでなくまだまだたくさんいると聞いた。



もしその方たちがそんな噂を聞いてしまったら?


嘘であったとしてもきっと気分を悪くするに違いない。













そんなことを思っていると、朝と同じようにガチャと扉が開く音が響いた。



ハルちゃんだろうか。と思い横になったまま首を扉へと向けた途端、そこにいた人物に目を丸くした。






『こ、紅炎様っ!!』



「いい、寝ておけ。」






紅炎様のお姿に、体を起こそうとすると額を抑えられてしまった。






『あの…お休みを頂いてしまい、申し訳ありませんでした。』




紅炎様には怪我のことは伝えず、体調不良とだけ伝えてもらっていた。





私の言葉に、「構わん。」と短く呟いた紅炎様は私がいる寝台に腰をかけ、片手で髪を撫でてくださった。






「熱は下がったようだな。」



『はい。明日からはまたしっかり働きます。』





紅炎様の表情は柔らかくて、撫でてくださる手も心地よい。





でも今は、その優しさが逆に辛かった。






第一皇子が侍女の病室に来られることなんて、まずありえない。




こんなことがあの姫様や侍女達に知られたら、また私はいじめられてしまうのではないか。




と、折角来ていただいたのにそんなことを思っている私は結局自分のことしか考えてはいなくて。


最低だ。








「なまえ。」



『あ、…はい。』



「俺の前で考え事とはいい度胸だな。」



『えっ、あ、すみません!』





1人で考え込んでいると、顔が歪んでしまっていたのか、紅炎様に怒られてしまった。



でも恐らく本当に怒っている訳ではないということは、その表情からわかった。






「辛いか?」



『ぁ…い、いえ、大丈夫です。』





今日の紅炎様は、なんだか優しすぎる。



私の頭を撫でていた手は、今度は私の頬へと移動して、その瞳は優しく私を見つめている。




体温はいっきに顔へと集中し、頭がぼーっとしてしまった。




なんだろう。この気持ち。







「無理はするな。だが、早く治せ。」



『はい…ありがとうございます。』





そう言って、部屋を出て行った紅炎様に撫でられた頬はまだ熱かった。






2014.4.13




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