26 脆さ
割れた湯のみの破片で傷ついてしまった指先から流れる赤い血は意外と止血するまでに時間がかかり、自分でも驚くほどたくさんの自分の血を見てしまった。
昔のこともあり血が大の苦手な私は医務室でびくびくとその流れる血で染まったガーゼやちり紙を見ていた。
しかし、それよりも酷かったのは左腕のようで。
服の上からとはいえ、熱いお茶がかかってしまった左腕はそこまで酷くはないが十分に火傷をしてしまっていた。
「まだちょっと熱があるわね。ゆっくり寝ていなさい。」
『はい…』
と、そんな感じでケガをした日から1日経った朝、私は1人、病人用の部屋で寝かされていた。
火傷のためか、微熱が出てしまったのだ。
医者のお姉さんが出て行った後、残された静寂に胸がきゅうとなる。
いつも寝る時はハルちゃんと先輩4人と同じ部屋なので、1人のこの部屋はやはり寂しい。
そして、身体のだるさと左腕の痛みにさらに不快感を覚える。
痛い。
あぁ。私はきっとあの姫様のお怒りをかってしまったのだなと思った。
媚びなんか、売っていないのに。
昨日のことを思い出して目から涙が出るのを堪えようと唇を噛みしめるが、それは止まることなく目から零れ落ちてしまった。
「なまえ…?!」
『え…、あ、ハルちゃん。』
「どうしたの?どこか痛む?」
『あ、ううん、違うの…』
急に部屋に入ってきたハルちゃんに、泣いているところを見られてしまった。
ノックくらいしてください。
ハルちゃんの私を見る不安そうな顔にまた心が締め付けられたが、その見知った大好きな安心できる顔にまた少し涙が込み上げてきた。
「ねぇ、なまえ。なにかあった?」
『え?なんにもないよ?』
そう言って、体を起こした私の背中を撫でてくれるハルちゃんの顔はやはり心配してくれているようだ。
でも、心配なんてさせられない。と、思い切って笑顔を作ってみた。
「話して?なにかあったんでしょ?」
『…』
「なまえ、あんたは1人じゃないよ。私だって力になりたいの。」
『…っ、はる、ちゃ…』
その言葉に、再び目から溢れ出した涙。
それを見たハルちゃんは、はぁとひとつ溜息を落とし私の頭を撫でてくれた。
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「それって、ほんとなの…!?」
昨日あったことをハルちゃんに話すと、案の定許せない!と怒っていた。
昨日のことは辛いけど、それを知って目の前で自分のことのように怒ってくれる友人に心が軽くなるのを感じた。
『ハルちゃん、このことは誰にも言わないでね。』
「え!」
『お願い!私、まだここで働きたいの。皆に迷惑はかけられないし…お願い。本当にお願い。』
目の前で両手を合わせると、左腕が少し痛かったが「分かった。」とハルちゃんが言ってくれたのでよかった。
「なにかあったらすぐに言ってよね。」
『うん!じゃあ、仕事がんばってね。』
ひらひらと手を振って部屋を出て行ったハルちゃんに、たくさんパワーをもらった気がした。
でもやっぱり、辛いなあ。
2014.4.12
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