24 甘ったるい香り





相変わらず読書を続ける紅炎様の隣で桜を眺めるという侍女ではありえない状況。




いつも思うが紅炎様はどうしてこんなにも私を侍女らしく扱ってくださらないのだろうか。


ありがたいことなのかもしれないが、私としては緊張するし周りの目も気になってしまう。












「あら、紅炎様。こんなところでお目にかかれるとは嬉しいですわ。私もご一緒させていただいてもよろしいですか?」





ぼーっと桜を眺めていると、不意に後ろからかけられた声。




振り向くとそこにはたいそう派手な着物をお召しになり、お化粧もばっちりな綺麗な女性。

そしてその後ろにこれまた派手な髪飾りをつけた侍女が2人いた。




どこかで見たことのある。


確か、煌と同盟を組んでいる国のお姫様で、いわゆる"紅炎様のお嫁さん候補"の一人だ。







『す、すみませんっ、ここどうぞ!』





姫様の質問に、紅炎様は何もお答えにはならなかったが、こちらへとやってきた姫様に席を譲るため立ち上がった。





目の前を通る姫様から香るなんとも甘ったるい香りに少し頭がくらくらする。





私が座っていた椅子を姫様の侍女が何回か手で払い、その上に布のようなものをかけると姫様は腰を下ろした。






「お茶。」



『え、あっ、はい!ただいまお持ちいたします!』





姫様がお座りになった途端、侍女によって私に放たれた冷たい言葉に慌ててその場から逃げる。




いや、あなたも侍女なのだから取りに行けばいいじゃん。なんて思ったが、どう見ても私よりは三つか四つくらい年上の人にあんなに冷たく言われてしまっては反撃もできなかった。










お茶を淹れ、中庭へと向かう。





廊下から中庭を見ると、紅炎様の隣で楽しそうに話す姫様。






なんだろう。





その光景に、なんとなく胸の中がもやもやとした。








『お待たせいたしました。』




お茶を持っていくと、そこにはもう先ほどの侍女2人はいなくなっていた。




私のことなど居ないというように楽しそうに話し続ける姫様に、それを全く聞いてない様子で書物に目を通す紅炎様。





その様子を見ていると、不意に姫様はこちらに目を向けた。




『…っ、し、失礼します。』




その、姫様の目はなんとも冷たく、"あっちへ行け。"と言われたような気がして、背筋が凍ってしまいそうだった。







「そこにいろ。」



『えっ…』





早くここから逃げたい。と、踵を返した私にかけられた紅炎様の声。





書物に目を通したまま、今まで一言も発することのなかったその声に、話している途中だった姫様も驚いたように黙ってしまった。








『は、はい…』





こ、この状況は…たぶん、まずい。




目の前の姫様は私を完全に邪魔者だと思ってらっしゃるに違いないし、私も自分は邪魔者だと思う。






『…?』



紅炎様の後ろに立ち、俯いてできるだけ姫様を見ないようにしていると、くいくいと服の裾を引っ張られる感覚。




裾を引っ張る手から視線を上げると、顔をこちらに向けたいつもの無表情の紅炎様。







『な、なんでしょうか。』




そう尋ねると、紅炎様は急に立ち上がったので急いで膝を付こうとすると腕を引っ張って立たされた。





「やる。」



『へ?』




そう言って、私の頭にちょんと何かを乗せた紅炎様は嬉しそうに私を見ていた。





頭に手を当て、乗せられていたものを手に取って見ると、小さな桜の花がひとつ。




嬉しい。嬉しいけど、こういうのは普通姫様に…






『あ、ありがとうございます…』



「ああ。戻るぞ。」




お礼を言うと満足そうに笑った紅炎様はそう言うと歩き出した。




恐らく、一度も姫様に目を向けることもなく。







振り返り、姫様に深くおじぎをしてから紅炎様の後ろを追う。





後ろから感じる鋭く冷たい視線とオーラに、私はとんでもないことをしてしまったのではないかと思った。




いや、実際したのは紅炎様なのだが。






2014.4.7

春休みが終わっちゃうぜーい





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