22 ひらり
『わ…きれい…』
朝、紅炎様がお済みになった朝食を片付け、食後のお茶を持ち紅炎様のお部屋へと向かう途中に通った中庭で綺麗な綺麗なピンク色に目を奪われる。
その整備された中庭の真ん中にある大きな桜の木はいつのまにか見事に満開になっていた。
すごいなあ。と思いつつ、足元に落ちていた花をひとつ手に取り再び紅炎様のお部屋へと足を進めた。
今日はなんだか気分がいい。
朝からこんなに綺麗な桜を見ることができたからだろうか。
『失礼します。お茶をお持ちしました。』
コンコンとノックをし、中に入るといつものように書物に目を通してらっしゃる紅炎様。
この光景にももうだいぶ慣れた。
「なまえ。」
『は、はいっ!』
紅炎様の机にそっとお茶を置き、また中庭を通ろうかななんて思いながら部屋を出ようと踵を返すと、不意に腕を掴まれた。
いつも思うが紅炎様は急に腕を掴んだり頭を小突いたりなさることが多い。
その度に私の心臓は飛び跳ねるのだからやめてほしいところだ。
これだけはいつまで経っても慣れやしない。
『なんでしょうか?』
な、なにかしたっけ…。怒られるのか…
「随分と楽しそうだが、なにかあるのか。」
『へ?』
また何か怒られるのかと思っていた私にかけられた質問は予想外すぎて目を見開いてしまった。
『いえ、別に…』
突然の質問にどうしたらいいか分からなく口ごもる私を紅炎様はじっと見つめていた。
そのお顔はやっぱり綺麗で、見つめられていることに顔が熱くなる。
それにしても、楽しいこと…楽しいこと?そんなのあったかな…あ
『あっ、紅炎様。これを。』
ふと思い出し、先ほど感動してついつい拾ってしまったひとつの小さな桜の花を懐から出す。
懐にしまっていたため少し形は崩れてしまっているが可愛い小さな花。
「桜か。」
『はい!中庭の桜の木が満開だったんですよ!とても綺麗で…紅炎様もぜひ一度見に行ってみてください!』
手のひらに花を置きじっと見つめる紅炎様。
紅炎様と小さな花…合 わ な い…
「おい。」
『はい?…いてっ!』
「考えが顔に出ている。」
『あ、ああすいませんごめんなさい!』
とても失礼なことを考えていたらやっぱりばれて小突かれてしまった。い、痛い。
紅炎様にはいつも頭の中を読まれてしまう。
痛いなあと頭を抑えていると、今度はそこを優しく撫でられた。優しい。
「そんなに綺麗だったのか。」
『はい!それはもう!』
わしゃわしゃと頭を撫でられる手が気持ちよくて目を細める。
やっぱり紅炎様に撫でてもらうのは好きだ。
「ならば今日は外で読書でもするか。」
『え!本当ですか!』
「ああ。」
柔らかい表情でそう仰った紅炎様に、飛び上がるくらい嬉しくなり頬が緩んだ。
「仕事が終わってからだ。」
『は、はい!!』
そう言って書類に目を落とした紅炎様に私も書類を何枚か持って近くのテーブルに腰をかけた。
今日は本当にいい日だ。と、大嫌いな書類仕事もがんばれそうだ。
2014.4.2
桜が満開なので桜ネタ!
本当に日本は良い国だ〜
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