15 崖っぷち






「雷、収まったようですね。」




白龍様の言葉に、外へ意識を向けると、雨もかなり弱まっているようだった。







『ほんとですね。』





じゃあ戻りますか。と2人で顔を見合わせて笑った。





白龍様とのお話は、時間が経つのも忘れてしまいそうなほど楽しかった。







「なまえ殿、またお話しましょう。」




『はい!』






外に出ると、まだ少し雨は降っていて空は暗い。






白龍様に一礼し、みつけた書物をひとつ手に持って紅炎様のお部屋へと向かった。










しかし、なんともいえず、城の中に漂う悪い空気に嫌な予感を覚える。






悪い空気、というより、殺気…?






「っ、なまえ!!」




『あ、ハルちゃん!』





謎の殺気に頭を捻らせていると、角を曲がった所にいたハルちゃん。




私を一目見たハルちゃんは、顔を真っ青にさせてこちらへ走ってきた。







その、ハルちゃんの表情に、なにかあったのだと悟ったが、ついさっきまで倉庫にいた私にはなにがなんだかさっぱりわからない。









「やっと見つけた!あんた、どこ行ってたのよ!!」





『ご、ごめん!倉庫に書物を探しに…』




「もう!なんでもいいけど、早く紅炎様の所に行って!!」





『え?あ、うん。』





私も今から行くつもりだったよ。と答えると、いいから!早く!と急かされた。





ハルちゃんはなにをこんなに焦っているのか、すごく気になる。







そして、嫌な予感…






『は、ハルちゃん。』




「なに?」





『も、もしかして、紅炎様、怒ってらっしゃる…?』





「…」






ちょ、いや、なんか言えよ!!







言葉を詰まらせ、目を逸らすハルちゃんに嫌な予感は的中していると確信。







『待って、待ってハルちゃんなんか言ってよ!』




ハルちゃんの反応から察するに、これ、私、今紅炎様にお会いしたら殺されるかもしれないよね。





『は、ハルちゃん私死にたくないよう…なんとかして隠れないと…』




「だ、だめよ!私達まで殺されちゃうじゃない!!」







え、え、ええええええ!






なにそれそんなに紅炎様お怒りなの!?









『な、なんで!』




「あんたが居なくなるからでしょーが!」







ハルちゃんの話によると、朝からいなくなった私を探せ、と侍女たちは紅炎様に命じられたそうだ。






そして、なかなか見つからない私に紅炎様はお怒りということだ。






「それで、今は紅炎様自らなまえのことお探しになってるわよ!」




『そ、それはそれは…』





ど、どうしよう。





「私たちまで怒られるんだから!」




『ご、ごめん!』






でも、でも、












『ハルちゃん、私やっぱり死にたくないよ!だからなんとか怒りが収まるまで隠れる!』






「ほう。これ以上俺の手を煩わせるというのか。」





『っ!!!!』





背筋が凍り、全身から嫌な汗。





幻聴だろうか。


幻聴だったらどんなに良かったことか。



むしろ、幻聴であって欲しかった。








しかし現実は厳しい。






恐る恐る後ろを振り返ると、不機嫌オーラやら殺気やらを垂れ流してらっしゃる紅炎様。






『こ、ここ紅炎様…』







終わった。




私の人生たいしたことなかったな。なんて心の中で思った。







2014.3.16




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