13 その手を広げたら





黙って書庫へと歩く紅炎様の後ろをいつものようについていく。






朝の忙しい時間。



侍女たちは忙しなく動き回っていた。









書庫へ着くと、紅炎様はいつものように歴史書に目をお通しになる。




震える手で読書灯に火を灯し、私も書物を探しに行くことにした。





手の震えはピークだ。






紅炎様がこうしてよく書庫にお連れしてくださるので、最近はたくさん書物を読めるようになった。








だが今は、そんな場合ではない。







入り口と、紅炎様からなるべく遠くの棚と棚の間にいくと、しゃがみ込む。






つめたい。きもちわるい。こわい。






夢に見たことを思い出し、我慢していたものが溢れるように頭を駆け巡った。







しゃがみ込み、震える両手で自身を抱きしめる。






声は出さずに、音は立てずに、歯を食いしばって呼吸を整える。






つめたいつめたいきもちわるい。







でもいつまでもこうしてはいられない。





それでも身体は言うことを聞かない。




まるでさっきの夢のように、そのままの状態で動けなくなってしまった。






自身を抱きしめる手に力が入り、爪が食い込んでしまいそう。













「なまえ。」




『ぁ…っ!』





急に名前を呼ばれ、腕を引かれたと思うと、あたたかいぬくもりに包まれた。







この書庫は、本当に古い書物ばかりで人が来ることはまずない。




それにわかる。この声は、匂いは。






『こ、紅炎様…』




「いいから。」





このぬくもりは、紛れもない、紅炎様だ。






離れようとすると、胸に頭を押し付けられ、動けない。



そしてもう片方の手で、優しく背中や頭を撫でてくださった。






『す、すみません…』




「構わん。」





そう言って撫でる手はとても優しくて、暖かくて。




身体の震えが収まるのがわかった。







「朝から、震えていただろう。」




『は、はい…』






やっぱり、気づいていらっしゃったのか。





その上でなにも聞かず、こうして人のいないところに連れてきてくださったのかと思うと、感謝してもしきれない。







「なにかあったのか。」




言いたくなければいい。と紅炎様は背中を撫でる手を止めずに仰った。






『夢を、昔の夢を見まして…』




これだけしてもらって、隠すなんてことないと思い、話すことにする。





『昔、父と母が目の前で殺されました。』




それだけ言うと、そうか。と仰った紅炎様。






「辛かったな。」




『っ、はい…』





その言葉に、また涙が溢れてしまったが、心は幾分も軽くなった。






『紅炎様…ありがとうございます。』




泣きながらお礼を言うと、紅炎様は何も言わずにまた、背中を撫でてくださった。





2013.3.13






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