9 いつものわたしで






紅炎様の髪は美しい。



紅く、綺麗な髪を櫛でとくと、止まることなくするりと通る。






朝、紅炎様の髪を結うのも私の仕事だ。





私の黒髪とは違う紅い髪はとても美しく、いつも羨ましく思う。






私は不器用なので、この仕事が決まった時は何度もハルちゃんの髪で練習をしたのを覚えている。




今ではばっちりだ。







『できました。』




「あぁ。」





そう言って、立ち上がった紅炎様は今日は朝からお出かけのようで。







「夜には戻る。」




『はい!』





そう、ぽんぽんと頭を撫でてくださった。




紅炎様は人の頭を撫でるのが好きなのか、よく頭を撫でてくださる。




その手は大きく、とても心地よいので目を細めた。








『いってらっしゃいませ。』





大きな門まで行き、他の侍女さんや官僚の方々と一緒に紅炎様を見送る。






最後にもう一度、私の頭を撫でた紅炎様は、絨毯に乗って行ってしまった。




紅炎様の眷族の方たちが、その後ろに何人か着いて行く。








残された私はというと、少し視線が痛い。





紅炎様がよく、私をお召しになることは、もう宮中ではほとんどの人に知れ渡っている、と神官様がこの前仰っていた。







その視線から逃れるように、廊下を進むと途中でハルちゃんに会った。






そのまま2人で紅炎様の部屋に向かい、寝具を整えたりお部屋の掃除をする。






今日は紅炎様がいらっしゃらないので、その分洗濯や掃除など、本来の侍女である私の仕事をたくさんした。






いつもと違い、ハルちゃんや先輩とお話をしながらする仕事はとても楽しかった。








「なまえ、今日ちょっと働きすぎじゃない?」




『へ?そんなことないですよっ!』






いつもできない分、今日くらいはしっかりしよう。と張り切って仕事をする私を心配してくれる先輩。






こうしていつでもよくしてくれる先輩や友達がいる私は幸せだと思った。












そうこうしているうちに、日が暮れて、晩ご飯の片付けも終わり、一日の仕事が終わった。







部屋へと続く廊下を、ハルちゃんと2人で歩いているときふと、「夜には戻る。」という紅炎様の言葉を思い出した。







「なまえ、紅炎様のこと考えてるんでしょ〜?」




『え?いや、別に。』





隣でにやにやするハルちゃん。


な、なんでわかったの!?と心の中で少し焦ったが、平常心。平常心。








『夜には戻るって仰ってたから。』




「そうなんだ。じゃあもう戻ってるんじゃない?…あ。」







そう言って外を見上げたハルちゃんの視線を追い、同じように見上げると、ちょうど朝と同じように絨毯に乗って帰ってくる紅炎様たちがいた。







なんというナイスタイミングなのか。






急いでハルちゃんと2人、廊下を走る。





2013.3.9





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