君の体温
ぱちり。と音がしたんじゃないか、と言ったほどにぱちりと目が覚めてしまったのは、残業の文官さんでも寝静まっているほどの夜中だった。
寝台から半身を起こし、寝台の横の机にある水を一口飲む。
もう一度横になり、眠ろうとするが、胸の中をなんともいえない寂しさが満たした。
目の前には薄暗い天井。
皆が起きるまであとどれくらいだろうか。
さみしいな。
『よいしょ。』
とうとう、耐えきれなくなって寝台から足を出す。
シンドリアの夜は肌寒い。
ひと気のないしんとした廊下をとぼとぼ歩く。
何も考えず、ただ歩いていると、案の定ひとつの部屋の扉の前まできてしまった。
結局、ここへ来てしまった。と、自分でも少し情けない。
そっと扉を開き、音を立てずに中に入ると、寝台でこちらに背を向けて眠る紫の髪の毛。
ゆっくり近づくと、規則正しい寝息が聞こえた。
その、大きな大きな寝台に寝転ぶ。
起こさないように、音を立てず。
目の前にある大きな背中に抱きつきたいという衝動に駆られるが、起こしてはいけないと伸ばした手を引っ込めた。
手を伸ばすと届く距離に、愛おしい温もりがある。
いつも私を包んでくれる、大好きな人。
でも我慢。
起こしてはいけない。
そんなこを考えながら、目の前の背中を眺めていると、それはくるりと寝返りをうち、私はその腕ににすっぽりと収まってしまった。
「どうした?」
『シン。』
顔を上げると、あたたかい穏やかな瞳に見つめられる。
抱きしめられ、感じる体温は私が欲しかった温もりとシンの匂い。
あたたかい。
「怖い夢でも見たのか?」
そう言って、私を撫でる手は優しく、思わず目を細める。
『ううん。起こしちゃってごめんなさい。』
なんとなく、さみしかったの。と答えると、シンは目を丸くした。
『それで、眠れなくて。』
「珍しいな、なまえが"寂しい"なんて。」
『それはっ…』
いつもシンが近くにいるから。
なんて恥ずかしいこと言えるはずがない。
「ん?」
『んーんー。なんでもない。』
「そうか。」
そう言って私の頭を撫でるシンは心なしか楽しそう。
撫でられるのが心地よく、さっきまで全く無かった眠気が襲ってくる。
「眠れるか?」
『うん。』
ありがとう。と言うと、シンはちゅっと私の額に唇を落とした。
起きたらまたシンがいてくれるから、寂しいことなんて何一つない。
そんなこを意識の片隅で思いながら、眠りについた。
2014.3.8
辛いことがあったらシンにぎゅってしてもらいたい。
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