それは幸せ
『んー…』
暖かい日差しに目を覚ます。
少し強すぎるんじゃないかというほどの日差しに、今日はカーテンを閉めて寝ようかと思うが、やっぱりこの方が目覚めがいいのでやめた。
『あれ、』
腰のらへんに重みを感じ、やっとのことで瞼を上げると見慣れた紅い髪の毛。
『ムー…?』
驚いて、一気に頭が覚醒した。
目の前の綺麗な紅い髪に整った顔立ちは、間違いなくレーム帝国ファナリス兵団団長、そして、私の恋人でもあるムーアレキウスだ。
彼は確か、遠征に出ていたはず。
『ムーっ…!』
思わずまだ寝ているムーにぎゅっと抱きついた。
遠征で少し長い間会えなかった。
会いたくて、会いたくてたまらなかった人が目の前にいる。
夜遅く帰ってきたのだろうか、疲れているだろうし、今日は1日寝かせてあげよう。
ムーのぬくもりを感じながら、そんなことを考えていると、腰に回された腕が優しく私の頭を撫でた。
「なまえ、ただいま。」
『ムー…おかえりなさい。起こしちゃった?』
「なまえが抱きついてきたあたりからな。」
『え、』
「朝から積極的だな。」
『なっ!』
黙れ変態!と言うと、気にすることもなくニヤニヤと笑うムー。
こんなやりとりも久しぶりだ。
いつ戻ったのかと聞くと、昨日の夜中と答えたムー。
そのまま私の家に来て、隣で寝たらしい。
『疲れてるでしょ?今日は1日寝る?』
「あぁ、そうしたいのだが、朝の会議で報告しないといけないんだ。」
そう言ってめんどうくさい、と言ったような顔をする。
団長となれば、戦うだけではなくそういうこともしなければならないので大変だ。
この大きな背中にレームの平和を背負って生きているんだなと思った。
『大変だね、がんばって。』
「あぁ。」
それならば、朝ごはんを作って見送ってあげよう。と寝台から足を出す。
フライパンに、卵を二つ割る。
昨日までは一つだった卵。
『…?なに?』
不意に、後ろから抱きついてきたムー。
「なんでも。見てるだけだ。」
『ふーん。』
素っ気なく答えてしまったが、いつもより甘えん坊なムーはかわいくて嬉しかった。
そしてなにより、ムーが帰ってきて、一緒に朝を迎えて、隣にいてくれる。
そんな日常をとても幸せなことに感じた。
この後は一緒にごはんを食べて、送り出して。
「いってきます。後でな。」
そう言って触れるだけのキスを落としてくれたムーに、一番の笑顔を向けた。
2014.2.27
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