その手を取って
「あ!なまえだ!なまえおねーちゃーんっ!!」
しまった。と思ったときには遅かった。
お昼過ぎ、レーム帝国が誇る立派な闘技場の近くを通りかかったとき、30mほど離れた場所に綺麗な赤い髪の集団を見つけた。
この国を守る、誇り高きファナリス兵団。
別になにか用がある訳でもないので、そのまま立ち去ろうとしたとき、1人のまだ幼い男の子と目が合ってしまった。
見知ったその顔はぱあっと明るくなり、その小さい足は地面を蹴ってこちらへと飛んできた。
そう、飛んできたのだ。
さすがはファナリス。
こんな距離もひとっ飛び。
よく見ると、蹴った地面は割れてしまっていた。
と、呑気に考えていたのだが、非常にまずい。
受け止められるはずがないのだ。
よけなければ、とは思うものの、男の子の太陽のような笑顔を見ると避けるのが少しかわいそうだ。
それに、私の後ろは壁。
そしてそれ以前に、戦士でも兵士でもない私の身体はそんな都合良く動いたりしない。
つまり、避けられないということだ。
私、死ぬかも。
あぁ、それならいっそのこと、と両手を広げ精いっぱいの笑顔を作り目をつぶった。
が、来るはずの衝撃は無く、そのためにきつく瞑った瞼を上げた。
『あ、ムー。』
「団長ー!」
私の目の前にあったのは、ファナリス兵団の団長、ムー・アレキウスと、その腕の中で嬉しいそうに笑う男の子だった。
「なまえー!」
ムーの腕から私の腕へと移ろうとする男の子を抱き上げる。
うん。かわいい。
「おい。」
『あ、ムー。お疲れさま。』
「なにしてるんだ。受け止められるとでも思ったのか?」
はぁ、と呆れ顔をされた。
『いやー、私が避けたらこの子が壁にぶつかっちゃうじゃん?』
「お前がいても、お前ごと壁にのめり込むだけだろう。」
うわ。痛いとこ突かれた。
ムーは相変わらず呆れ顏だ。
「ねぇー、なまえおねーちゃん!」
『んー?なにー?』
「あのね、俺が大きくなったらなまえおねーちゃんをお嫁にしてあげるね!」
『ほんとに?それは楽しみだね。』
なんてかわいい子なんだ、そう思った瞬間、男の子は私の腕から抱き上げられてしまった。ムーに。
「ほら、みんなのところに戻りなさい。」
「えー、」
「いいから、早く。」
「わかった!」
ムーは笑顔で男の子の頭をぽんぽんと撫でた。
ファナリス兵団の元へと帰っていく小さな背中を眺めながら、この子も国を守る戦士なんだなと思った。
「なまえ。」
『んー?』
あれ。
少し不機嫌なムー。
ん、もしかして。
『なに、嫉妬したの?』
おもしろすぎる。
「黙れ。」
『やばい、おもしろいんだけど、』
クスクスと笑ってしまう。
「そうか、いいんだな?」
『え?』
「お前はあの子と結婚するんだろ?」
『は?』
おかしい、こんな流れじゃないはず。
「あの子のことが好きなのだろう?じゃあ俺はどうしようか、新しく相手を…」
『む、ムー!』
「ん?」
今度はムーが意地の悪い笑み。
一瞬にして形勢は逆転してしまった。
あぁ、やっぱり。
敵わないなー、なんて思う。
『ちがうよ、私が好きなのは、』
「好きなのは?」
楽しそうに、意地の悪そうに、ニヤニヤと笑う目の前の男はほんとうにファナリス兵団を率いる団長なのか、と疑いたくなる。
『私が好きなのは、ムーだけだよ。』
「知ってる。」
満足、といった笑顔の前で、顏を赤く染めるのだった。
2014.2.24
テスト前だから時間ないはずやのに書いちゃう!
勉強しないと!笑
短編は書きたいネタがいっぱい〜
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