[8 全部]
分かってはいた。
こうなることぐらい。
『ジュダルー?』
後ろから聞こえるなまえの戸惑いを含めた声。
そりゃあそーだ。
俺が何に対してイライラしているのか、こいつに分かるはずない。
そう思うと少し可哀想になるが、なまえの手首を掴む手と、ずんずんと歩く足は止められない。
分かってはいた。
なまえが煌帝国に来るということは、同時にここの奴らになまえを見せることだということは。
そうすればこいつはすぐに仲良くなるだろう。
そして、ここの奴らもすぐにこいつの魅力に気づく。
こいつは、なまえは人を惹きつける力がある。
さらに、人懐っこい。
それにしても、紅覇も紅炎も許せない。
普通、初対面であんだけ親しくするか?
紅覇も紅炎もそんな奴じゃねぇはず。
なまえは、俺のなのに。
ずんずんと廊下を進む先は、もちろん俺の部屋。
なまえの部屋は遠いし、場所がどこだったかもう忘れた。
『ジュダル?どうしたの?』
がちゃ、と扉を開け、部屋に入った瞬間にぎゅっとなまえを抱きしめる。
その行為に、俺のイライラは自分に対してではないとわかったのか、なまえは少し安心したようだった。
『ジュダルー?』
なまえが俺の背中に手を回して、片方の手で頭を撫でてくれる。
俺だけのなまえ。
なまえの穏やかな声に、嫉妬なんてした自分が醜くなってきた。
「わりぃ。」
そっと身体を離す。
しかし、なまえの顔を見ることができない。
「…?」
俯いて黙ったままでいると、不意に右手に温もりを感じ、目を向けると、俺の右手を包むなまえの左手。
『え、えっと、さっきお部屋で繋ごうって言ってたでしょ?』
そう、少し恥ずかしそうに言うなまえは正直めちゃくちゃかわいいと思った。
もしかして、なまえはこのことで俺が怒っていると思ってるのか?
違うのにな。
そう思うと、なんだか少しおかしくなった。
それに、少しいい気分。
だって、今なまえの頭の中は、きっと俺のことでいっぱいだ。
その瞳は不安げに俺だけを見つめ、その左手は俺の右手を包んでいる。
「ふっ。」
『なに?』
「なんでもねーよ。」
そう言ってクスクス笑うと、なになに!気になる!と頬を膨らませるなまえ。
その頬をを指でつんつんとつつくと、なまえも微笑んだ。
『ジュダルなんで怒ってたの?』
「別にー。」
『え、教えてよ!』
「また今度な。」
えー!と駄々をこねるなまえの頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めた。
どれだけいろんな奴と親しくなっても、最後にはまた、俺のそばにいてくれるならそれでいい。
なんて思った。
だけどまあ、紅覇と紅炎はうざいな。
2014.3.9