[7 はやくはやく]
「なまえ、先に紅炎の所に行くぞ。」
『う、うん。』
窓からの景色を楽しんでいると、ジュダルに手を引かれた。
そのまま部屋を出る。
しかし、手を繋いだままというのは、なんというか恥ずかしい。
実際、すれ違う人たちは皆驚いた顔で私を見るのだ。
『じゅ、ジュダル!』
「ん?」
『手…』
繋がれた手を見ながら言うと、ジュダルは頭に?を浮かべた。
『その、恥ずかしいから離して?』
そう言うと、ジュダルはたちまち不機嫌丸出しの顔になった。
「嫌なのかよ。」
『ちがうよ!』
皆がいるから恥ずかしいと伝えると、ジュダルは不服そうに手を離した。
『お部屋で繋ごう?』
「…」
そう言うと、今度はくしゃっと頭を撫でられた。
どうやらそれほど怒ってはいないようだ。
「ここだ。」
ひとつの扉の前で足を止める。
緊張から大きく深呼吸をすると、「緊張しすぎ。」と笑われた。
「紅炎ー、来たぞ。」
そう言ってノックもせずに扉を開けるジュダルはやっぱりノックを知らないのだと思った。
その後ろに続き、失礼します。と一言添えて中に入ると、1人の男の人が机に肘をついてこちらを見ていた。
しっかり挨拶しよう。
シンドリアで挨拶をしたときに似ているなと思った。
ただ、今回挨拶をする相手はシンドバッドさんではない。
『はじめまして。なまえと申します。これからたくさんお世話になると思いますが、どうぞよろしくお願いします!』
慣れない敬語で考えた挨拶をして頭を下げる。
だが、一向に返事はない。
恐る恐る顔を上げると、先ほどと変わらない様子で紅炎様はじっとこちらを見ていた。
「もっと近くに来い。」
『…?はい!』
そう低い声で言われ近づくと、じーっと見つめられた。
『紅炎様…?』
「いい目だ。好きなだけここでゆっくりすればいい。」
『…っ!はい!ありがとうございます!』
「あぁ。それから、"様"は無しだ。お前は部下ではない。」
そう言って頭をぽんぽんとしてくれた。
大きな手はシンドバッドさんを思い出させ、心地が良かった。
「触ってんじゃねーよ。」
『わっ!ジュダル!』
急に腕を引かれたのは、ジュダルの手によってだった。
「もーいいだろ。」
「あぁ。」
行くぞ。と小さくつぶやき、部屋を出て行ったジュダルの後を追うように、ひとつおじぎをして部屋を出た。
ジュダルはかなりむすっとしている。
「あー!ジュダルくん!!」
「っ、うわ。」
ジュダルの後ろに着き、ずんずんを廊下を進んでいるとき、1人の赤い髪をした男の子がぱたぱたとこちらへやってきた。
不機嫌なジュダルになんて声をかけようか迷っていた所なので、正直少し助かった。
だが、その男の子を視界に捉えた瞬間、ジュダルの顔はさらに不機嫌になってしまった。
「ん?なぁにー?この子?」
そう言って今度はこちらに目を向けた男の子。
大きな目はキラキラとしていて美しかった。
『はじめまして、なまえと言います!』
「あっ!なまえって、君かぁ〜」
ジュダルくんから聞いてるよ!とにこにこと笑う姿はとってもかわいらしいと思ってしまった。
「僕は練 紅覇。よろしくね〜!」
『はい!』
そう言って今度はぎゅっと手を握られた。
「あああああ!!!もう!」
『へ?』
急にジュダルが爆発したように叫んだので、驚いて振り向くと自分の髪の毛をくしゃくしゃにしていた。
「来い。」
『えっ、あっ!こ、紅覇さん!また!』
「もう行っちゃうの?またお話しようね〜」
不機嫌オーラ全開で、私の腕を引き歩き出したジュダル。
さっきから、何に対して不機嫌なのか分からず、頭を捻った。
2014.3.8