13 覚えています



「あらぁ。やっと会えたわ。」




『…っ!』






その日は雨だった。



黒く重い雲が煌帝国を覆い、朝だというのに薄暗い空が禁城を包んでいた。






そんなある日の朝、不意にかけられた声に背筋が凍る感覚に襲われる。






恐る恐る振り返ると、綺麗な黒い髪の女性。



その瞳はどこまでも深い闇。





知っている。


覚えている。この感覚は。







「そんなに緊張しなくてもいいのよ?なまえ。」




そう言ってにこにこと笑うその女性はなんとも綺麗で美しい。が、放たれる冷たさに身体がちっとも動かなくなってしまった。






怖い。助けて。





朝だというのに薄暗い廊下はいつもと違いしんと静まりかえっていた。



まるで、城内には誰もいないかのよう。







「綺麗な目。」



『っ…ぁ、』





そっと頬に触れられた手はやはり冷たかった。



逃げたいのに、身体は固まってしまい言うことを聞かない。








『や、やめ…て、くだっ…さ…』




やっと絞り出した言葉は雨の音にかき消されそうなほどに小さかった。





怖い。嫌だ。




目の前の女の人に思い出したくない感覚を、嫌でも思い出してしまう。






「ふふふ。まあいいわ。いつでも殺せるものね。」




『っ…!』





変わらぬ笑顔で呟かれた言葉に、ついに目からこぼれ落ちる涙に気がついた。







「また会いましょう。なまえ。」





そう言って去っていく女性に、どすんと力の抜けた身体は床に落ちた。





2014.4.7



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