[3 呼びました]
水曜日の朝は仕入れと買い物の日。
別に決めた訳ではないが、なまえはいつもそうする。
朝早くに仕入れた果物を、店の中に運び入れ、もう一度買い物にいく。
まずはパン屋さん。
「なまえ!これ持っていけ!」
焼きたてのパンをひとつ買うと、店のおじさんはパンの耳がたくさん入った袋をくれた。
『わー!おじさんありがとう!イケメン!』
お礼を言い、次に魚屋さんを目指そうとしたとき、急に腕を引っ張られる。
『は、離してくださ…痛っ!』
そのまま薄暗い路地裏へと引かれ、ついに地面に叩きつけられた。
訳がわからない。
「ははっ、見ろよ!高く売れるぜ!」
目の前には数人の男たち。
「ほんとだな!いや、その前に少し楽しむか…!」
1人の男が近づいてくる。
「アニキ!ずりぃぞ!」
「やれやれー!」
アニキと呼ばれた男は、しゃがみこんで私を見た。
今の光景が理解できず、おじさんにもらったパンの耳が入った袋をぼーっと見つめていたが、次の声ではっと正気に戻る。
「お嬢ちゃん、いい声で鳴けよ?」
『…っ!!や、やめて!』
ー犯される。
ー怖い。
怖い怖い怖い。
いやらしい手が肩に触れた。
怖さでぎゅっと目をつぶる。
怖い。嫌だ。助けて。助けて。助けて。
『助けて!ジュダル!!』
「おとなしくし…がはっ!!?」
肩に置かれた手がなくなり、目を開けてみた。
さっき目の前にいた男は、なぜか壁にのめり込み、周りの男たちは目を見開き凝固している。
「てめぇら、なにしてんだ?」
まっすぐで力強い声が響いた。
聞いたことのある大好きな声に、振り向いてみるとやはりその人しかいなくて。
『ジュダル!!』
「なまえ!…っ!!」
なまえの怯えた瞳、それから流れ落ちる大粒の涙、そして乱れた服。
それを見た瞬間にジュダルの顔つきが変わる。
「てめぇら、全員しね。」
ジュダルが杖を振り上げると、杖の先に黒い玉みたいなものができあがる。
「っ!!に、逃げろ!」
それを見た男たちは、泣きそうになりながら逃げていった。
「待てよ!」
追いかけようとしていたジュダルは、自分の後ろで震えているなまえに気づき追うのをやめる。
「なまえ!大丈夫か?!」
『ジュダル、ジュダル…こわ、かった…!』
「ああ、怖かったな。もう大丈夫だぞ。」
ジュダルに抱きしめられ、背中をさすられ、少しずつ落ち着きを取り戻す。
ジュダルが来てくれなかったら大変なことになっていただろう。
『ジュダル、ありがとう助けてくれて。』
でも、
『なんでここがわかったの?』
ていうか、なんで助けにこれたのか。
「いやお前、呼んだだろ?俺のこと?」
『は?』
呼んだ。呼んだけど、
「だからだよ!まあ、もっと早く来てたらこんなに怖い思いしなかったよな。遅くなって悪い。ていうかお前弱すぎだろ。」
ジュダルはケラケラと笑ってみせた。
そんな姿を見てなまえはポカンとする。
まあ、いいか。
「よし、立てるか?」
ジュダルに手を引かれ、家に帰る。
今日はもう店を開けず、ジュダルと家でゴロゴロすることになった。
2014.1.11