[26 おかえりとただいまとさよなら]
『じゅ、だる…』
「あぁ、わかったわかった。」
腕の中で泣きじゃくる私の背中をなだめるように撫でてくれるジュダル。
『ごめん、忘れてて。』
「ほんと、だっせーやつ。」
消せる訳がなかった気持ちが、とてもとても大きな気持ちが、溢れ出して止まらなくなる。
いろいろなことが頭の中を駆け巡り、ぐちゃぐちゃになってしまっても、この思いだけは間違いないといえる。
「そんで、どーすんだよ。」
『…?あ、』
自分のことで頭がいっぱいだった。
周りには、シンドバッドさんをはじめシンドリアの国民が静かにこちらを見つめていた。
「なまえ。」
計り知れないほどの恩がある。
一生かかっても返せないほどの愛をもらった。
『シンドバッドさん…』
この人がいなければ、私は今生きていることはできなかったと確信している。
私はどうしたい?
シンドリアにいたい、ずっと。
ちがう。
私は、私は、
「なまえ、こっちを見なさい。」
『っ…』
俯いていた顔を上げると、いつもの優しい顔をしたシンドバッドさんに頭を撫でられる。
心地よい。
私は、この国を、シンドバッドさんのこのシンドリアを、出たいというのか。
一生かかっても返せないほどの恩を置いて去るというのか。
「なまえ、落ち着きなさい。ジュダルから話は聞いた。」
シンドバッドさんは優しい口調で続ける。
「シンドリアを、出なさい。」
『えっ、』
「君の生きる場所はここではない、だろう?」
シンドバッドさんは全てをわかっている、というような顔をして言った。
また涙が溢れてくる。
今日はもう枯れるほど泣いているような気もする。
シンドバッドさんはその涙を優しく拭ってくれた。
この人は、本当に全てが優しい人だ。
『でも、私、こんなにたくさんの御恩を置いていくなんて…』
「何を言っている。」
再び頭を撫でられる。
「君がここに来てすぐのとき、言ったはずだ。俺たちは仲間で家族だ、と。家族を助けるのは当たり前だ。」
ここに来て何度も思ったこと。
この人ほど、シンドバッドさんほど心の広い人はいないのではないか。
「俺たちはここにいる。いつでも帰って来なさい。」
『は、い…』
最後まで、助けてもらってばかりだと悔しい反面、家族と言ってもらえることが純粋に嬉しかった。
2014.2.8