[25 空っぽの心]
私。私というもの。
長い旅をしたような気分。
目の前は真っ白で、なにかに似ている。
真っ暗な空間のことを思い出し、少し怖くなった。
しかしここは違う。
似ているが違うのだ。
あたたかくて心地よい感覚に意識が揺らぐ。
シンドリアに来て、目が覚めてすぐのころ、なにもかもが空っぽだと思った。
なにも知らない、わからない、と。
ーーなまえ、
それでもいいと思った。
空っぽの私に、この国でもらった物をたくさん詰め込めれば、と。
ーーなまえ、なまえ、
心地がよかった。
変わりたくなかった。
怖かった。
本当の自分を知って、今を失うのが。
ーーなまえ、
失くなってしまえばいいと思った。
過去の自分が。
そうすれば、何も知らずにここで幸せに暮らせるのだ、と。
全て忘れてしまっている今ならば、と。
私にはなにもないのだから。
なにも、なにも無かったのだ。
消してしまおう。全て、全て。
ーーーおい、そろそろ起きろなまえ。
ちがう。
そんなの、不可能だ。
無理だ、無理に決まっている。
『できるわけ、ないよ…』
「なまえ…?」
薄っすらと目を開けると、心配そうな顔をしたシンドバッドさん。
『こんなにも、こんなにも大きい気持ち…』
その横で立っている、影に目を向ける。
『消してしまえるわけ、ない、よ。』
「あぁ、こい。」
全てをわかったような瞳で、ジュダルは私を強く抱きしめた。
2014.2.7
メールがとても励みになっています。
こんなくそみたいな文にお付き合いいただいて、本当にありがとうございます。
完結まであと少しですが、完結後はたくさん短篇なども増やしていくつもりです。
これからも精いっぱいがんばります。