24 染まるよ


ヤムさんの声に、その場にいた全員が空を見上げた。







「…っ!?なぜ、あいつが!?」






ジャーファルさんの声に、空に浮かんでいる人影。






『……あ。』





間違いない。






祭りの光が人影の顔を照らす。








夢で見る、黒い髪の男の子だ。









「っ!!なまえっ!!!」






黒い髪の男の子は、その瞳に私を写した途端、一目散に私の元へ飛んでくる。








そして、ぎゅうと私を抱きしめた。







「なまえ、なまえ…」






少し、苦しいくらいに抱きしめられるが、嫌な感じはしない。









「っ!貴様!なんのつもりだ!」





ジャーファルさんの声で、ほぼ放心状態だったその場の皆が臨戦態勢に入る。






まずい。







『ち、ちがうの!待っ「待て。」…』






その場の全員がピタリと動きを止めた。





シンドバッドさんだ。






「し、しかし!シン!」





「いいから、やめるんだ。」






シンドバッドさんの凛とした空気に、警戒はやめないが武器を下ろすジャーファルをはじめ八人将。










「なまえ…やっと、やっとみつけた…」






ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ男の子。




その手は私を抱きしめたまま離さない。








「守ってやれなくて悪かった…」





あぁ、この人は。






「ずっと探してたんだぜ。」





私を本当に大事にしてくれていたのだ。




でも、私は







「会いたかった。」




『っ…』




私には、私には


記憶がない。



そう言ったら、そう知ったらこの人は





どんなに傷つくのだろうか。





ましてや、シンドリアにずっといたい、なんて






『…ぁ、あたし、あたし…』





涙が止まらなくなる。




上手く言葉も出せない。






「なんだよ?」






今度は優しく背中をさすってくれる手。






あなたの名前も知りません。なんて





言えるわけない。




『ごめんなさい…ごめん、なさい』










「ジュダル。」







不意に、シンドバッドさんが口を開く。







「ジュダル、この子には、なまえには今、記憶がない。」





「はぁ…?」





シンドバッドさんの言葉に、ジュダルと呼ばれた男の子は私の肩に埋めていた顔を上げた。






「おいバカ殿。そいつはどーいう意味だ。」






「嘘だと思うなら彼女に聞いてみろ。」







2人の空気はなんとなく険悪だ。





「おい。」





初めて体を離されて、真正面に向き合う形でしっかりと見つめられる。






『ごめんなさい…私、その…』




「っ、まじかよ。お前、相変わらずダッセーな。」




『はぁっ!?』





急に失礼なことを言われたことに、腹が立つ。





「ほら、こーいうとこも。」




男の子はにやりと笑い、私のほっぺをつんつんとした。





『ちょ、やめてよ!』




「うるせーな。」





そう言って次に、両手を私の肩の上へと置いた。





「ぼーっとしてんじゃ、ねーよっ!!」





『…っ!』





男の子の顔が急に近づいたと思うと、ごつんという音と共に額に鈍い痛み。


目の前が真っ白に変わった。





2014.2.3節分

≪ | ≫
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -