[21 癒えない]
ジャーファルに言われた通りに今日までの書類の仕事をしていたが、気づけば夜中になってしまっていた。
今日は、さすがに疲れた。
ジャーファルは鬼か何かなのか知らないが、俺にどんと仕事を持ってくる。
それに、今日は1度もなまえの顔を見ていない。
執務室から自室へと向かう途中、ふいになまえに会いたくなり、寝ているとは分かっているが、気づいたらなまえの部屋へと向かってしまっていた。
本当に、俺は重症だと思う。
なまえの部屋へと近づくと、部屋の扉が少し開いていることに気がつく。
そして、
『ぅ、ぅ、ぁ、いや…』
「っ…!?」
間違いない、なまえの苦しむ声にすぐに部屋へと飛び込む。
ベッドの上で、苦しそうに身体をよじるなまえ。
悪夢でも見ているのだろうか。
そして、あの時と同じ様に、すぅと右腕を上に伸ばしたのだ。
"助けて" と。
「なまえ…っ!!」
その手を引き、なまえごと自分の腕の中に閉じ込める。
「なまえ、なまえ!」
『ぅ、あ、しんど、ばっどさん…』
「安心しろ。悪い夢を見ていただけだ。」
『は、はい…』
俺の服をぎゅっと握りしめ、大粒の涙を流すなまえ。
よほど怖かったのだろう。
「怖かったな。もう大丈夫だ。俺がいるからな。」
『…ぅ、うぅ…』
声を押し殺して泣くなまえ。
安心させるように、頭を撫でてやる。
昨日まで元気に楽しそうに過ごしていたなまえ。
今は大粒の涙でぐしゃぐしゃ、震える身体。
この子になにがあったのかわからない。
だが、ひとつ言えること…
彼女が負った傷は相当深く、簡単には癒えないということ。
「まだ外は暗い。もう一度寝たらいい。」
『…』
ふるふると横に首を振るなまえ。
また悪夢を見るのが怖いのだろう。
それならば、
「俺が一緒に寝てやる。隣で守ってやるから、安心しなさい。」
そう言うと、静かに首を縦に振った。
なまえを抱きかかえ、一緒にベッドに横になる。
俺の服を掴んで離さないなまえを、自分の身体に寄せ、背中に手を回し抱きしめる。
いや、この状況はなかなかまずい。
なにがまずいのかというと、まあ、その、いろいろだ。
自分の中で葛藤が始まり出した頃、なまえが顔を上げた。
『シンドバッドさん…』
「…ん?なんだ?」
『私って、なんなのでしょう…』
そう言うと、俺の答えを待つ前にまた、顔を俺の胸に埋めた。
「なまえは、なまえだ。他の誰でもない、俺の大事ななまえだ。」
なまえはなにも言わなかった。
彼女を支えて、身体も心も救ってやりたいと思っていた。
彼女を救えるのは自分だ、と。
だが実際、彼女は今も苦しんでいる。
腕の中の小さな彼女を抱きしめる力を少し強める。
俺じゃだめなのか、と柄にもない。
「自信、失くすなあ…」
『シンドバッドさん』
「…っ、起きていたのか。」
『いや、その、私、シンドバッドさんに出会えてよかったです。』
「え?」
『あなたには本当に助けてもらってばかり。本当に本当にありがとう。』
照れくさいのか、少し身をよじるなまえ。
『私が暗闇にいるとき、いつもいつもあなたの声が聞こえる。そして、助けてくれる。シンドバッドさんの声を聞くと安心できるんです。それで、』
なまえの発する言葉ひとつひとつに胸がきゅぅときつくなる。
『今、シンドバッドさんの腕の中にいるのが、その、一番、です。』
「…っ///」
『お、おやすみなさい///』
なんなのだこの子は。
やっぱり俺は、いや、俺が、この子を守らないといけない。
そう思い、また抱きしめる腕に力を入れた。
2014.1.25