20 声と闇と



ーーー…なまえ!…なまえ!






目の前に見えるのは、黒い髪をした男の子。




必死に私の名前を呼び、私を探しているよう。






きっとこの人は、私が記憶を失う前に仲の良かった人だろう。




しかし、私はこの人を知らない。



いや、覚えていないのだ。






ーーー…なまえっ!くそ、どこなんだよ…帰ってきてくれよ…俺は、俺は、






きっと私を大切にしてくれていたのだろう、そして、今でも私を大切に思ってくれているのかもしれない。




だから探してくれているのか。





そう思うと、胸がきつくなる。





記憶を失う前に私を大切にしてくれていた人たちと私はどのような別れ方をしたのか。





もしかしたら、まだこの男の子のように私を探してくれている人もいるのかもしれない。







ーーー…なまえ、っ、会いたいんだよ…今、すぐに…





『っ!ここ!ここにいる!私はここだよ!!』





気づいたら叫んでいた。





だが、その声は男の子には届かず、次に視界いっぱいを黒い闇が包んだ。











『っ…!?ぁ、あぁあぁああぁあ!』





同時に、強い頭痛に襲われる。






怖い。暗いのは、闇は怖い。







『いや、いやぁ…!!!』






どこかで感じたことのある…何かが頭に入ってきて、めちゃくちゃにされる感覚。








助けて。助けて。助けて。助けて。







無意識に、手を伸ばす。




誰か助けて、と。








『誰か…っ、ぁ、たす、けて…っ!』






ーーーなまえ…!!!




声が聞こえる。



私が一番安心できる声。



大好きな、強くて大きいあの人の声。




2014.1.25


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