19 瞳に映る姿に


最近、我が王は少しおかしい。






「この時間なら、中庭にいるはずだ。」






会議が終わり、執務室に戻ろうとしているとき、わがシンドバッド王はそう呟き、執務室とは反対方向へと歩き始めた。





遠回りどころではない。

仕事もまだまだ山積みであり、寄り道などしている暇はなかった。




「まったく…」





そんなこともお構いないという感じのシン。その瞳は会議中のそれとは違い、キラキラと楽しみに満ちていた。






「シン、仕事がまだ残っています。」





「あぁ、わかっているさ。」





心なしか早足のシンはやっぱり楽しそうで、彼が向かっている中庭になにがあるのかは考えなくてもわかる。




「はぁ…」




「幸せが逃げるぞ、ジャーファル。」





誰のせいと思っているのだか。






ーーーーーーーーーーーー







『あ!シンドバッドさん!!』




あたたかな日差しが降り注ぐ中庭に箒を一本持った少女はシンの姿を見るたびパタパタとかけよってきた。





「やぁなまえ、元気そうだな。」






なんだあの顔は。本当にこの国の王なのか。だらしないにもほどがある。






『ジャーファルさんも!こんにちわ!』





こんな王でこの国は大丈夫かと考えていたとき、私に気づいた少女、なまえは次に私の元にパタパタとやってきて、笑顔を見せた。





眩しいくらいの笑顔。

純粋に、かわいい。





「なまえ、こんにちわ。」





なまえの後ろで私を睨むような視線を感じるがそれは無視だ。





王をだらしなく思ったりするが、そういう私も実際やはりうれしいのだ。





「中庭の掃除ですか?毎日ご苦労さまです。」




そう言って、頭をぽんぽんと撫でてやる。



『へへ』




そうすると、心地よさそうに目を瞑るのがまた可愛いのだ。






「なまえ。」





『わっ、』





まぁ、そんな柔らかい時間がこの男の前で続くわけもなく。



険しい表情のシンがなまえの腕を引いたことによってバランスを崩すなまえ。



一瞬でシンのもとへとなまえの意識が行ってしまったことが寂しいが、それよりもシンドバッド王の嫉妬具合に呆れてしまう。





「なまえ、体調は悪くないか?」




『はい!もう、記憶を思い出そうとして頭痛におかされることもなくなったんですよ〜』




なんにも思い出せないんですけどね!と笑うなまえ。





「そうか。元気でいるならそれでいい。」





そうして次はシンがなまえの頭をぽんぽんとする。




なまえはまたも気持ちよさそうだ。





「シン、そろそろ仕事へ戻らないと。」




『あっ、お仕事お邪魔してしまい申しわけありませんっ!』




「いえ、私たちが会いに来たのですから。」




拗ねたような表情のシン。
本当にこの人は。





「なまえ、ではまた。」




『はい!シンドバッドさん、お仕事がんばってくださいね!終わったらまたお話しましょう!』




「…っ、ああ!すぐに終わらせる!」






やはり最近の王はおかしい。
というか、王の中心は完全になまえになってしまっている。



それから執務室にこもり、一心に仕事をする王を見て、また一つため息をついた。


2014.1.22

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