[13 失くしたもの]
目を覚ますと、綺麗な天井があった。
クリーム色の布団が身体にかけられており、ふかふかのベッドの上だとわかった。
頭が痛い。
両手を頭に当てようとしたとき、違和感に気づく。
違和感というか、あたたかいのだ、右手が。
そっと手見ると、自分の手の上に重なる手。
はっ、と視線を上げると、心地よそうに眠る紫の髪をした男の人がいた。
握られた手が、ものすごくあたたかい。
ガチャ、部屋の扉が開き入ってきた男の人が目を見開いて私を見た。
その人は唖然としていたが、はっとして紫の髪の男の人に駆け寄った。
「シン!起きてください!少女が目を覚ましました!!」
「なにっ!?」
がばっ、と勢いよく顔を上げた紫の髪の男も、驚いたように私を見た。
「気分はどうだい?」
誰なのだろうこの人は…
少し怖くなり、言葉が出せなかった。
「大丈夫だ。敵ではないよ。」
この声に聞き覚えがある。
ーー大丈夫だ。俺がいる。
闇の中で腕を引いてくれた声。
この人は大丈夫だ。そう思った。
「君の名前を教えてくれるかい?」
『なまえ、です。』
そう、私はなまえだ。
それからえっとーーー
「そうか、なまえ。俺はシンドバッド。そしてこっちが、ジャーファル。俺の仲間だ。」
後ろにいた人がペコっとおじぎをしてくれた。
「聞きたいことがいくつかあるんだが、いいか?」
こくん、と頷いてみせると、シンドバッドさんは優しく笑いかけてくれた。
ジャーファルさんは少し私を警戒しているようだ。
「なまえ、君はどこから来たんだい?」
私は、どこから…
『うっ…!!!』
瞬間、強い頭痛に襲われた。
『い、いだい…っ、うっ…あ、』
「なまえ!どうした?!」
『なに、っあ…わからないっ…私がわからないっ、』
「いい!もう思い出すな!やめろ!」
シンドバッドさんがぎゅっと私を抱きしめてくれた。
考えるのをやめ、あたたかさに包まれると頭痛は収まった。
痛いのは嫌だ。
「なまえ、記憶を失っているのかもしれない。無理に思い出そうとするのはやめろ。」
シンドバッドさんは私を離し、目を真っ直ぐ見てそう言った。
『はい…』
「とにかく、ゆっくり休むんだ。」
そう言って、今度はぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「大丈夫だ。俺がいる。」
その言葉に妙に安心し、再び襲ってきた眠気に逆らうことなく、瞳を閉じた。
2014.1.12