12 伸ばした手を

少女が空から降ってきたのは、一週間ほど前のことだった。






顔には無数の涙の跡。



おそらく、鼻水と唾液とでぐしゃぐしゃになっていた。





身体には無数の傷と痣、痩せて細くなり、服は泥だらけ。








はじめは死んでいるのかとも思えた。






しかし、息はあった。







「シン、この子は確かに幼いですが、危険である可能性も否定はできないのですよ。」








王宮の一室、けして広くはない部屋の真ん中にひとつベッドがあり、その上では少女が顔を歪めながら眠っていた。







「わかっているさ、ジャーファル。」






少女の横で椅子にかけている一人の男、この国の王であるシンドバッドは心配そうに少女をみつめ呟く。





王宮に仕える女性たちによって、綺麗にされた身体と服、だが、少女の表情は変わらず苦しそうであった。






しかし、突然空から降ってきた訳のわからない少女にここまでよくするのは、シンドバッドの器量ゆえ、だろう。






「手を伸ばすんだよ。」




「えっ?」





「こうやって、上に。苦しそうに。」





シンドバッドは自らの手を天井へと伸ばして見せた。






「苦しそうに。助けを求めているようだった。」






シンドバッドは少女のもとをよく訪れていた。




なぜか惹かれるのだ。この少女に。







「その手を取ってやると、また眠ったんだ。」







シンドバッドは悲しそうに少女の頬に手を当てた。







「早く目を覚ましてくれ。」





2014.1.12

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