「七瀬くんが好きなの」
「…」
暑い夏の日。
太陽は容赦無く照りつけ、全てを溶かしてしまいそう。
「彼女がいるのは知ってるよ…でも、好きなの」
セミの大合唱に消されることもなく女の子の声は響く。
2組の林さんだ。
とてもかわいいのに彼氏がいないので有名。
目の前の状況に少し混乱する。
職員室に呼ばれていた私を遙は教室で待っていてくれて、迎えに来たら学校のマドンナに告白されている。
怖い。
歯を食いしばり、教室から逃げるように去って行く。
見ていられなかった。
下駄箱で靴を履き替え、鞄からウォークマンを取りだした。
「りんごっ!!!」
振り向くと、息を切らした遙。
心なしか少し怒っている。
そりゃそうか。待たせていたのに先に帰ろうとしてるもんね。
『あ、遙待たせてるの忘れてた!ごめん!』
なんじゃそりゃ。
ケラケラと笑ってみせる。
知らないふりをしよう。
別れを切り出されたら仕方ない。
だって相手はあの林さん。
「りんご…」
でもやっぱ、辛いなあ…
「りんご、なんで泣いてる…」
『え…』
気がつくと頬に一筋の涙。
「泣くな」
遙が不器用に涙を拭ってくれる。
「どうした。誰になにされた?どこか痛いのか?」
心配そうな顔で見つめる遙。
『な、んでもないよ!』
「なんでもないやつは泣かない」
『目にゴミが「入りすぎだ」…っ』
遙は鋭い。
ていうかこの状況だと誰でもこうか。
「隠すな」
ずんずんと壁に押しやられ、逃げ場がない。
仕方ないか。
『さっきの、見た。』
遙が目を少し大きく見開く。
『自信ないから、遙に捨てられ「おい!」…』
少し怒った遙の顔。
「バカりんご。」
『バカ言うな!失礼!』
「俺はいつでもりんごしか見てない。」
『っ!』
遙が目を逸らしてつぶやく。
ほんのりと頬も赤い。
『え…てことは…』
「断るに決まってる。」
『よ、かっ、た…』
また涙が溢れる。
よかった。まだ遙のそばにいれる。
「だから泣くな」
何度も涙を拭ってくれる遙。
『ご、ごめん…』
「りんご」
『なに…んっ』
顔を上げると、目の前には遙の顔。
突然のキスに驚いたが、うれしい。
唇が離れ、目の前には真っ赤な顔の遙。
「ほら、帰るぞ。」
『うん!』
2人の間に流れる恥ずかしさをセミの声でかき消した。
(ウチ来るか、鯖あるぞ。)
(鯖は飽きたのでいりません。)
(だが今日は味噌煮込みだ。)
(…)
あとがき
毎回毎回文章力ないのに最後まで読んでいただいてありがとうございます。
2013.8.8